[2]落ち葉の思い出
「おはようございます」 朝 校門に立っている 。子供たちと挨拶を交わす。 笑顔いっぱい大きな声を出す子がいたり、 恥ずかしそうに小さな声でつぶやく子。 時には立ち止まってふかぶかとお辞儀をする子がいたりする 。微笑ましい子供たちとの、いつもの朝のスタートである 。 この時期、校門のそばにある銀杏の木の葉が、落ち葉となり歩道を埋める。そんな落ち葉を見ながら 10年近く前の思い出が蘇ってきた 。 ある日、学校に電話がかかってきた 。 「オタク○○小学校だよね 。何とかしてくれないかな」 「 どうかしましたか 」と、わたし。 「 家の前の道路に落ち葉が溜まってるんだよね」 「はい」 「片付けてもらわないと困るんだよ」 「そうですね......」 言いながら、わたしは首をかしげる。 「ここオタクの通学路だろう 隣には、オタクに通っている子供もいるみたいだし」 一方的な電話は、そう言って切られた 。 通学路の落ち葉は、学校で片付けるものなのか―― 妙な課題を考えている自分に気づき 、わたしは「違うだろう」と苦笑いしながら自分を納得させていた。 思い出は、過ぎ去れば美しい 。だが、そうでもないものも時にはあったなと考えながら校舎に戻った朝であった。 |
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田中孝宏 小学校長
1960年千葉県船橋市生まれ。83年4月、小学校教諭に。2011年から現職。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。