27.母の思い出
昭和女子大学2年 比佐野彩
私は小学1年生のとき、母を亡くした。
記憶に残る母は、料理があまり得意ではなかった。ハンバーグは両面が焦げた状態、ピーマンの肉詰めはピーマンと肉が分かれ、キャベツを使った料理には、いつも芯が入っていた。
だが、一つだけ文句なしにおいしかった料理がある。かぼちゃのポタージュだ。ミキサーで細かくしたかぼちゃに牛乳を加え、煮詰めた簡単なスープで、私はこれが大好きだった。
母がいなくなってからは、父が仕事をしながら家事をこなし、私を育ててくれた。母と違い、父は料理がとても上手で、ピーマンの肉詰めは、きちんとピーマンに肉が詰まった状態で出てくるし、キャベツの芯が料理に入ることもなく、どれもとてもおいしかった。
父はかぼちゃのポタージュも作ってくれ、これもおいしかったが、私が好きだった母の味ではなかった。
大学生になり、私は実家を離れ、姉と二人暮らしを始めた。姉は仕事で帰りが遅くなることが多く、食事を作るのは私の担当だ。
先日、かぼちゃのポタージュを作ってみたが、どうしても母の味にはならなかった。簡単なスープのはずなのに、どうしてもあの味にはならないのだ。
母の記憶は、年月を重ねるごとに段々と薄れていく。ただ、かぼちゃのポタージュの味は忘れていない。ポタージュのおかげで母のことを少しでも私は思い出すことができる。
母が残した「思い出」をいつかは再現したい。かぼちゃのポタージュは作り続けよう。
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