29.おうちでカット
法政大学3年 宮島昌英
新型コロナウイルスの影響で、今年2月以降、人と会う機会が減り、髪型を気にしなくなった。わざわざ散髪のために外出するのが面倒で、気付けば、私の頭は荒れ放題になっていた。
6月初め、大学1年生の妹が、私の髪をカットすると言い始めた。妹は、自分の前髪をハサミでそろえるぐらいは日常的にやっており、他人の髪をカットしてみたくなったという。
「兄貴なら外出しないし、髪も短いから多少失敗しても大丈夫でしょ」
変な髪型にされては困ると思いつつ、妹の「腕前」を信じてカットしてもらうことにした。
ゴミ袋をかぶって首から上を出し、浴室の椅子に座る。ハサミ2本とクシを手に持った妹が後ろに立った。
最初は恐る恐るで、おぼつかないハサミさばきだったが、切り進めていくにつれ、徐々にさえていった。
上機嫌の妹に対し、私は内心、耳を切られやしないかとヒヤヒヤだった。
「意外とうまく切れたと思わない?」
鏡で仕上がりを確認すると、確かになかなかの出来栄えだ。妹の手先の器用さに感心した。
「これで、頭はボサボサじゃなくなったね。オンラインの映りもよくなるんじゃない?」
普段はあまり見せない妹の「思いやり」の一面を知ることができた。
彼女は将来、作業療法士になることを目指し、大学で勉強している。作業療法士は、患者のリハビリをサポートし社会復帰を助ける仕事だ。持ち前の思いやりで、患者さんを笑顔にしてほしい。
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