53. スマホなしで会えますか?
法政大学3年・奥野郁子
顔を知らない二人は、スマホなしで待ち合わせができるのか?
そんな企画に挑戦したのは、2021年12月のことだった。入学以来ほとんど緊急事態宣言の日々を過ごし、オンライン授業でも「顔出し」をすることが少なかった私たち。キャンパススコープのあるメンバーと、「私たち、きっと道であってもわからないね」と話したことがきっかけだった。
「じゃあ、本当に会えるかやってみようよ」。2人で意気投合し、軽い気持ちで挑戦した企画。待ち合わせ場所は、一日に約47万人が利用し、「日本最大のターミナル駅」と言われるJR新宿駅の東西通用口を選んだ。ざっくり「15:00」という待ち合わせ時間と、「30分経って会えなかったら連絡する」というルールだけを決め、スマホを「封印」した私たちは、新宿駅に向かった。
オンライン授業が長引き、15:00ギリギリに到着した私。乗っている電車が間に合うのかも、ついついスマホで調べてしまう。雨が降っていたこともあり、待ち合わせ場所は意外に混んでいた。辺りをキョロキョロ見渡すが、それらしい人はいない。「それらしい」とは、スマホを見ないで人を待っている人、行き交う人も、壁にもたれて誰かを待っている人も、手にはスマホ。つまり、持っていない人が待ち合わせの相手に違いない、という予想だ。そうこうしているうちに、直感的に「あの人かも...」と思う人とすれ違った。向こうも自分を見ていたような気がする。声をかけようか、でも人違いだったらどうしようか...。もうダメだ、会える気がしない。
あてどなく20分程歩き回っても、会える気がしない。さっきの「あの人かも」という人とまたすれ違ったような気がする。声をかけるべきだろうか、どうしようか...。そこに突然LINEの着信。「勧誘に捕まっちゃった」という待ち合わせ相手からの連絡だった。こうなったら企画は中止だ。慌てて電話をかけようとするところへ「ちょっといいですか」と声をかけられ、心臓が止まりそうになった。「人と待ち合わせているので...」男性を振り切り、電話をかける。「西口の改札で待ってます!」。
慌てて電話を切った後、ふと気づいた。よく考えたら、相手は自分の顔を知らないのに。ひっきりなしに人が行きかう改札口。こうなったら、片っ端から同世代に声をかけてみるしかない。勇気を出して声をかけてみた1人目から、「よかった、やっと会えた!」の返事。2人とも、安堵の気持ちで文字通り、膝から崩れ落ちそうになった。新宿駅に着いてから、1時間が経っていた。
あれから半年。街には人が戻り、見知らぬ人の多さに時々窒息しそうになりながらも、私たちは本格化する就活に忙しい日々を送っている。自己分析や企業分析、手探りの日々が続き、不安になる時もある。そんな時、口を揃えて喜び合った12月の「あの日」がふと蘇る。誰かと繋がっているって、こんなに心強いことだったんだ。ともにコロナ禍を過ごした仲間たちと励まし合いながら、先の見えない就活のゴールに向かって進んでいこうと思う。(法政大学・奥野郁子)
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