MyScope 52. 努力はつづくよどこまでも

チアリーディング部引退の記念にもらったぬいぐるみ


52. 努力はつづくよどこまでも


法政大学1年・金崎葵

 

 「全国選手権大会につきましては延期とさせて頂くことになりました」。

 

 新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年3月。高校1年生だった私の所属するチアリーディング部のグループLINEに、1本の通知が届いた。

 中学で吹奏楽部に所属していた私は、高校で目にしたチアリーディングの一糸乱れぬチームワークに心を奪われ、入部を決めた。1人の気の緩みが大きな怪我につながる競技。ほとんどが未経験からのスタートだった私たちの代は、特に苦労した。筋肉痛と闘い、あざを沢山作りながらみんなで声を掛け合う日々。ひとつまたひとつと技が出来ていき、やがて演技が形になっていった。努力が成長として目に見えてわかる過程が本当に嬉しく、楽しかった。高校1年生の冬に初めて出場した大会で、全国大会への出場権を獲得。演技が終わった後、舞台裏でみんなで抱き合い、嬉し涙を流した。

 

 そこに降ってわいた突然の延期。続いて全世界を覆ったコロナ禍のため、夢の舞台は中止に。楽しみにしていた台湾への修学旅行も直前に無くなり、高校生活で得られるはずだった仲間たちとの思い出づくりの場が、次々と消えていった。

 先の見えない不安と喪失感。自粛生活を送る中で、唯一の楽しみだったのは、テレビドラマだった。中でも、「恋はつづくよどこまでも(恋つづ)」で、新人看護師の役を演じた上白石萌音さんが、私を勇気づけてくれた。辛いことにもめげず、ひたむきに頑張る役柄や、明るい笑顔に自分を重ね合わせ、あすへの希望をもらった。彼女がどんな人柄なのか、もっと知りたいと思い、ドラマだけでなく、雑誌や、楽曲、書籍、舞台と、あらゆる作品を探し求めた。断続的な緊急事態宣言やまん延防止措置で、やりたいことも思うようにできない高校生活の心の支えが、彼女だった。ある時、休校で会えなかった友人が、偶然にも「恋つづ」を見ていたことを知った。2人で励まし合い、「推し」を共有することで、ひとりではないこと、離れていても心がつながっていることを感じることが出来た。

 この春、晴れて大学生となった私は早速、彼女が主演する舞台「千と千尋の神隠し」を観に行った。演技はもちろん、作品の完成度の高さにただただ圧倒された。舞台を見ている3時間が、辛かったコロナ禍の思い出をきれいに忘れさせてくれた。芸術の持つ力を実感し、その舞台を支える多くの人たちの努力に思いをはせた。「いつか自分もこんな作品を作る側になれたら」。作品を見た人が、少しでも元気になり、また頑張ろうと勇気をもてるような作品を届けるような仕事に関わりたい、そんな希望が湧いてきた。

 

 「みんな月を見てる 誰かを思いながら」 。歌手でもある上白石さんの曲の中でも私が大好きな「夜明けを口ずさめたら」の一節だ。芸術への関わり方は様々だし、今はまだ漠然とした夢かもしれない。チアリーディングで身につけた「努力できる心」を武器に、少しでも夢に近づけるような大学生活にしていきたいと思っている。

 



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(2022年7月 8日 07:30)
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