58. 伝統を未来につなぐ
上智大学1年・高橋礼那
「頼もしいね、東京の大学生が東北に興味をもって情報を発信してくれるのは」
9月30日に東京・大手町で開催された「ふくしまフードラボ2023」の会場で、参加者からかけられた言葉だ。
キャンパス・スコープ47号では、東日本大震災からの復興を目指す福島県の人たちの姿を取りあげた。1人でも多くの人に「福島の今」を知ってもらいたいと開かれたイベントで、取材体験を発表することになったのだ。
1年生の私は、6月に大熊町を訪ね、名物のキウイ再生に取り組む和歌山大学の原口拓也さんと、慶應義塾大学の阿部翔太郎さんを取材した。震災前、キウイ栽培に取り組んでいた関係者の熱い思いを受け継ぐ2人。「大熊町のおいしいキウイをもう一度、多くの人たちに食べてもらいたい」「農業を通じて町を再び活性化したい」という言葉を、1人でも多くの人に知ってもらいたいと思い、記事を書いた。彼らの活動が福島の人々のみならず、首都圏に住む同世代の若者にも刺激を与えているのを間近で感じ胸が熱くなった。自分の記事が福島の進化に繋がったことが嬉しかった。
紙面には載せきれなかったが、同じ日に、浪江町伝統の「大堀相馬焼」の工房再建に取り組む近藤学さんを訪ねた。約60キロ南にある福島県いわき市内の沿岸部に避難している近藤さん。荘厳な雰囲気を感じる登り窯で、話を聞かせてくれた。大堀相馬焼は、器がもつ特有の青ひびや馬の絵が特徴の焼き物で、17世紀の江戸時代から浪江町大堀地区で続いているという。震災前は20数軒の窯元があったが、原発事故によって、窯元は、県内各地に避難を余儀なくされた。避難が長引いたこともあり、今は、窯元の数も県内に12、県外に2と大幅に減少した。
「一つの伝統工芸がなくなってしまうかもしれない」と危機感を募らせる近藤さんは、自分自身の力で伝統を継承するという強い思いで再建に取り組んできた。8月からは故郷の浪江町で、少しずつ建物も造り始めた。いわき市から通いながら工房、窯、お店を再建し、来年3月までには完成させたいという。「後継者を育て、にぎやかな大堀相馬焼の産地を取り戻したい」という近藤さんの言葉にはっとさせられた。復興とは、以前あったものを取り戻すだけではない、伝統を受け継ぎ、未来に継承していくには若い力が欠かせない。キウイ再生にかける大学生たちの思いと、近藤さんの思いが、私の胸の中で交錯した。
キャンパス・スコープ47号では、他のメンバーと力を合わせ、被災地の人たちが未来につなぐ思いを3ページにわたって取りあげた。1人でも多くの同世代に読んでもらい、動き出してもらいたいと思う。誰かの思いが、誰かを動かす。そんな思いをつなげるような記事を、これからも書いていきたい。