2045年の学力[現場から]2.町の課題を解決する数学

 高校と大学の教育、その間の大学入試を抜本的に改革する高大接続改革――と言われても、よう分かりまへんやろ。センター仮面が、相方の大杉住子はんと一緒に、分かりやすう話させてもらいます。(第4金曜日掲載)

センター仮面&大杉住子・大学入試センター審議役 【聞き手】松本美奈(読売新聞専門委員)

 

[現場から]2.町の課題を解決する数学


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 お待たせや! またセンター仮面の登場やで。今日は数学の話。あ、いやな顔したな。「難しいこと言われても、かなわんなぁ」ってな。けどな、数学はわしらの生活にめっちゃ役立つんや。今回のテーマはずばり、「町の課題を解決する数学」や。ええか。それにな、数学わかると、かっこええやんて言われるで。そんな顔せんで、読んでな。ほな、オースギはん、よろしうお頼み申します。

 了解です。お任せください。

 みなさん、途中で投げ出さずに、おつきあいくださいね。

 

 まずは、先日発表したセンター試験の数学の問題例を紹介しよう。これはある新聞記事を参考にしている。町の広場に銅像を建てるのに、行政の担当者たちがクレーン車で銅像をつり下げてぐるぐる回し、広場の来訪者から最もよく見える位置を目で確認したという「町ネタ」だった。ところが、この記事を読んだ数学の先生たちは大ショックを受けた。

 「数学は日常生活に根付いていない......」

 先生たちによると、このぐらいは数学で難なく解ける。つまり鉛筆と紙さえあれば机上計算で解決できる話で、わざわざクレーン車を出動させる必要などないはずだ。先生方は、そんな現実にがっかりしたのだ。

 前回の国語と同様、ここでも教室での学びと実際に社会で生きる力が分断されていることがわかる。試験のために用意された問題を解くためではなく、学びの成果を実生活に行かせる場面はいっぱいある。数学で生活上の課題が解決できるのだから、数学の面白さ、役立ち感を知ってもらいたい。落胆の裏に、そんな先生たちの切なる願いもうかがえる。

 

■モデル問題例(数学Ⅰ)

【問題文】

 花子さんと太郎さんは、次の記事を読みながら会話をしている。

 


《記事》 公園整備計画 広場の大きさどうする?

 ○○市の旧県営野球場跡地に整備される県営緑地公園(仮称)の整備内容について、緑地公園計画推進委員会は15日、公園のメイン広場に地元が生んだ武将△△△△の銅像を建てる案を発表した。県民への憩いの場を提供するとともに、観光客の誘致にも力を入れたい考え。

 ある委員は、「銅像の設置にあたっては、銅像と台座の高さはどの程度がよいのか、観光客にとって銅像を最も見やすくするためには、メイン広場の広さはどのくらいあればよいのか、などについて、委員の間でも様々な意見があるため、今後、実寸代の模型などを使って検討したい」と話した。


 

花子:銅像と台座の高さや、広場の大きさを決めるのも難しそうね。

太郎:でも、近づけば大きく見えて、遠ざかれば小さく見えるというだけでしょ。

花子:写真を撮るとき、像からどのくらいの距離で撮れば、銅像を見込む角を大きくできるかしら。


 

 見込む角とは、銅像の上端Aと下端Bと見る人の位置Pによってできる∠APBのことである。

 二人は、銅像を見込む角について、次の二つのことを仮定して考えることにした。

・地面は水平であり、直線ABは地面に対して垂直である。

・どの位置からも常に銅像全体は見える。 ......(後略)......

 

>>この問題文の続き、回答例を見る(PDF・抜粋)

>>その他の例も見る(独立行政法人 大学入試センターウェブサイト)

  「大学入学共通テスト(仮称)記述式問題のモデル問題例 平成29年5月

 

 問題例からは、文系・理系を問わず大学教育の基礎力として必要な「さまざまな分野で役に立つ数学」「社会の中で生きる数学」というメッセージを全面的に発信している。繰り返すが、数式を書く、表にまとめる、グラフを書く......そうした力で、目の前の現実問題を解決することができるのだ。

 これまでのセンター試験の問題では、問題解決の構想から結論までのプロセスは問の中に示されてきた。これからはどう構想して、どのような考え方で結論に導いていくのかも、自分で考えなくてはいけない。主体的に、数学的に考える力が問われている。

 

<センター仮面のつぶやき>

12万人の「未提供者」


 導入後もう30年近くたったセンター試験やけど、いつも平均点がおよそ60点になるよう目指して作られてきたんやて。すごいやろ。それも、職人的な経験値で作られてきたというんやから。びっくりやな。

 けどな、その平均値の取り方が難しうなってるんやて。円グラフを見てくれなはれ。国公立専願、国公立・私立大学併願、私立大学専願と、成績未提供者。国公立専願と併願が合わせておよそ2分の1、私大専願がおよそ4分の1、成績未提供者がおよそ4分の1。

 センター試験は、受験者から承諾をもろうて成績を大学に渡してる。大学はそれで合否の判定をする。ここで言う「未提供者」はその点数を渡さんかった人なんや。それが全体の2割強、12万人もおる。記念受験とは思われんな。たいがい、指定校推薦やAOで合格が決まってる子が、高校や大学から腕試しせえと言われて受けているんやろ。しゃあから、未提供者の点数はどうしても低うなるんやろうな。結果、多様な学習者の学力を1回の試験で測る、いうのはちょっと無理があることになりつつあるのかな。基礎学力の担保からは、受けてもらう意味は十分あると思うけどな。

 多様な層を抱えた「平均点」をどう考えたらええんやろか。テスト作りは、めちゃ難しいわ。

 でもな、大学に行きたい子の8割が受ける。もっと、ええもんにせなあかん。これを変えたら、学習のやり方や授業も変わらざるをえん。実際、高校の授業はテストから逆算されとるからな。えらいこっちゃ。けど、今の問題をクリアするには、時間とお金をかけてあえてやる意義はあるはずや。負担を超えるメリット、それが大事なんと違いますか。

>>[vol.19] 一流の教育者は一流の研究者


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(2017年7月28日 10:00)
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