田中センセイの徒然日誌[23]無児童授業

[23]無児童授業

 

 大相撲、プロ野球、コンサートなどが無観客で開催された。大相撲では力士と力士がぶつかったときの音に迫力を覚えた。プロ野球ではベンチからの指令や選手同士の声の掛け合いなど甲子園の高校球児を思い出し、感動した。コンサートはどうなるのだろうと思ったが、巧みな演出と熱唱に、会場にいるかのような高揚感を覚えさせてくれた。それにしても、実際競技している選手や演奏しているアーティストたちには違和感はぬぐえないのではないだろうか。

 教育はと考えて、担任を外れて管理職になった時のことを思い出した。学校に行っても昨日まで目の前にいた子供たちがいない。そのショックは大きかった。もちろん、廊下や校庭では、挨拶を交わしたり話をすることはできたが、授業での接点がないとあるでは大違いだ。そして、しばしば行ったシミュレーション授業。思いついた授業内容を子供たちがいると仮定して、その反応を考えながら脳内で行うものだ。こうすれば子供たちの興味が湧くのではないか、そのためにはこんな教材が必要だろうと、いろいろ思いをめぐらすものだ。まさに無児童授業であった。

 それはむなしいものだった。子供のいない授業はあくまでもシミュレーションでしかない。教育はTEACHでなくCOMMUNICATIONの場であることを痛切に感じた。大人も自粛を迫られ、行き場を失った辛い日々。大切な時を奪われた子供たちに今からでもたくさんの対話の場が提供されることを切に願う。

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2020年7月10日 16:30)
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