田中センセイの徒然日誌[26]肩の力を抜いてみれば...

[26]肩の力を抜いてみれば...

 

 やじろべえって知ってますか? 子どもたちに聞いたら、どのくらいの子が「知っている」と答えてくれるだろう。主に人の形をしていて、胴の下を指の先に乗せて、左右に伸びた腕の先についている重りでバランスをとって遊ぶおもちゃだ。左右の重りや腕の長さを変えてもバランス良く立てられるか。それを工夫するのが楽しい。どちらかに重さを加えすぎたり、どちらかの腕を伸ばしすぎたりするとバランスがとれなくなって倒れてしまう。

 

 マスクや消毒があたりまえのようになった今。しかし、ひとつのことにあまり執着しすぎるのはどうなのだろうと思う。まわりに誰もいないところでさえマスクを絶対外さない人。誰も触っていない場所を何度も消毒する人。用心に越したことはないとは思うのだが。

 

 精神科医の斎藤環氏がコロナ禍の自粛生活からもたらされた倫理観を「コロナ・ピューリタニズム(CP)」と名付けたように、わたしたちは清潔、道徳的、禁欲的になりすぎてもいけないだろう。

 

 コロナを心配しすぎて右に傾いた身体をちょっと肩の力を抜いてみれば、左に傾きがもどっていく。不安でやるせない毎日だが、そんな風に不安定になりがちな心身を保っていきたいものだ。そして、いつも胴がまっすぐと重心を保っていれば決して倒れることはないだろう。

 

 やじろべえがいつかきっと優しく微笑んでくれる。ゆらゆら揺れながら。

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2020年9月30日 15:20)
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