[30]GOOD LOSER
ゲームには勝敗はつきものだ。
体育の時間などで行われるボールゲームの試合。もちろんどちらかのチームが勝ち、どちらかが負ける。あるいは引き分け。勝負が決まった後、負けたチームの子どもが「絶対、ずるだよ。インチキしたからそっちのチームが勝ったんだよ。うちのチームは負けてないよ」と言い出すことが何度かあった。まわりも輪をかけたように「そうだ。そうだ」の連呼。勝ったほうも負けじと「何言ってんだよ。負けたくせに言いがかりだ」と、言い合いで済めばいい方で、大概は教室に戻ってからも対立はくすぶり続けた。
そんな時、わたしは、黒板に黙って「GOOD LOSER」と書いた。小学校では英語は注目を集める。まして、まだ英語の授業などなかった時代だ。「うん?」と子どもたちの顔が黒板に向いたところで、「これは、英語でグッドルーザーと読みます。グッドは良い。ルーザーは負けた人。かっこよい負け方をする人といった意味です」子どもたちが耳を傾ける。
「勝負をすれば必ず負ける人がいるよね。でも、その負けを生かして、自分を高めることが大切だと思うんだ。英語を使う人たちは、そんな負け方をする人をグッドルーザーと呼んでいるらしい。日本語よりちょっとかっこいいよね。みんなもグッドルーザーにならないか」
最近、こんな昔のことを思い出した。ある国の選挙の記事を読んだからだ。そういえば、その国の人たちも英語を使っている。ちゃんと行動で示してくれないと、子どもたちにわたしがフェイクニュースを教えたことになってしまうから困ったものだ。
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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。