[33]「きまり」がなくても...
大阪府立高校に通っていた女性が在学中、茶色い髪を黒く染めるよう学校に強要されたなどとして府に損害賠償を求めた裁判をきっかけに、校則の在り方が注目されているという。
学校の「きまり」に必ず入っているのが「廊下は走らない」だ。確かに廊下の曲がり角で、走ってきた児童とぶつかる危険は多い。ポスターで啓発したり、カーブミラーを設置したりと様々な対策を採ってきた。こうした安全を考慮したきまりは、必要だ。しかし、地毛証明や服装の細かい規定などは、はたしてどうなのだろう。
「そんなきまりないだろう!」
何かに反対する時によく出てくる言葉だ。子どもたちはもちろん大人でも使う人がいる。校則もそうなのだが、わたしたちは何か「きまり」がなければ、何をしてもいいのだろうか。
朝の電車。ドアの近くが混んでいてなかなか降りるのが難しい。特にゲートキーパーのように左右に寄りかかるように立っている人はわざと降りるのを妨げているようにさえ見える。素知らぬ顔で携帯に見入っている姿。降りようとしている人を邪魔者のような目つきでにらみつける人。「降りる人のために通路をあける」というきまりはもちろんないが、だから何もしなくていいのだろうか。
きまりで育てられた人間は、自分で考えて行動することができなくなる。そう考えると教育の現場では、「きまり」についてもっと考えなくてはならないかもしれない。
「降りる方のためにドア近くの方は、いったんホームに降りるなど通路をあけていただけると助かります。ご協力よろしくお願いいたします。」
そんな車内放送が流れない朝を迎えたい。
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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。