沼田 晶弘
第58回 実習生がやってきた(4)
♦「巻尺で計りたくなる」授業って?
実習期間も終わりに近づいてきました。
本日の放課後の協議会のテーマは「巻尺の使い方を学ぶための授業プラン」です。教科書には最初から「○○の長さをはかりましょう」「まきじゃくの使い方を調べましょう」と書いてありますが、実習生とボクがさっきから議論しているのは、「子どもが巻尺を自然と使いたくなるようなシチュエーションをどう作るか?」です。
3年3組の教室は2階にあり、デッキから校庭が見渡せます。校庭には9月に完成したばかりの新しい遊具「のぼり棒」が立っています。そののぼり棒の「高さ」をクイズ形式で予想させ、後で実際に計りに行くというのはどうだろう?
「窓際の子は、のぼり棒が見えてしまうから予想しやすい。最初はカーテンを閉めておきたいね」とボク。
「授業が始まってからカーテンを閉じると、わざとらしくならないですか?」と実習生たち。「閉めていても、席を立って見に行っちゃう子がいるかも」
「そんな時は、『えっ、見ちゃうんだ? クイズなのにそれってつまんないでしょ。それでいいの?』ってニヤッとしながら言えばいいんだよ」とボク。
「もっと面白い授業」を目指して、議論は尽きません(9月30日、世田谷小で) |
♣ボクと実習生がワクワクする時
子どもたちが校庭まで計りに行くと、授業時間が足りなくなるかもしれません。その代わりに、H先生が校庭に行ってのぼり棒の横に立ち、その「対比」を見せるというアイデアが出ました。体育会系で活動的なH先生は、さっそく教室を出て、日も暮れた校庭にたーっと走っていきます。
「どうですか、見えますかー?」
H先生は教室にあった長い棒(これは以前子どもが作ってくれたもので、巨大な「ポッキー」みたいに色が塗られています)を持っています。その手を上に伸ばすと、のぼり棒と大体同じ高さになることが、2階の教室からわかります。ということは、H先生の身長とポッキー棒の長さを計って足すことで、のぼり棒の高さがわかるんじゃないか?
「あ、それ面白い!」
「オレたち今、ワクワクしてるよね!」
「何だか計りたくなってこない?」
教室に戻ってきたH先生が同じポーズをすると、ポッキー棒の先端が天井にわずかに届かない。
「ということは、あののぼり棒、この教室にすっぽり入るんだ。発見だね!」
「でも実際に持ってくるわけにいかないから、巻尺で計るって大事!」
「楽しい楽しい。授業としてすごくいい流れじゃない?」
外はすっかり暗くなり、協議会もとっくにタイムオーバーですが、ボクも実習生たちも熱い議論が止まりません。「明日は少しでも面白い授業をしよう!」という気持ちでみんなの心が一つになっているのを感じます。
♥先生になっても、ならなくても
ボクが出会った実習生のうち、プロの先生になったのは半分くらいでしょうか。
志をともにする後輩たちとはその後もずっと連絡を取り合い、定期的に勉強会を開いていますが、先生にならなかった人も来てくれます。それは結構重要なことじゃないかとボクは思っています。たとえ何かの事情で先生にならなくても、実習で体験したことや、子どもたちとの出会いが、その人の人生に深く関わっていることを感じるからです。
現場の先生たちにとって、教育実習の指導教諭を務めるのは楽ではありません。かなりの時間を費やしますし、そのために本来の授業計画が遅れてしまい、実習期間が終わった後、取り戻すのになかなか苦労したりもします。
それでも、ボクも子どもたちもこの季節が大好きだし、毎年心待ちにしています。ここだけの話、実習生とあーでもない、こーでもないと議論している時が、ボクにとっても一番いいアイデアが出る時だからです(笑)。
先生になった若者たちにとっても、ならなかった若者たちにとっても、このクラスが心のふるさとになり、この実習が「あの時は頑張ったな」っていう小さなタイムカプセルになればいいなと願っています。
学生のみなさん、もしご縁があったら、この教室でお待ちしています!
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