田中センセイの徒然日誌[59]「おまけ」の効果

[59]「おまけ」の効果

 

 おまけといえば、お菓子についていたシールやカードがなつかしく思い出される。箱のくちばしを集めてもらえるおもちゃのカンヅメは、高嶺(ね)の花だった。

 

 いつの時代も、どの国、どの世代の人も、おまけには並々ならぬ思いがあるらしい。

 「BMW批判 中国やまず アイス配布騒動 不買呼びかけ 車に落書き」(2023年4月25日読売新聞 朝刊)によると、上海モーターショーのBMWのブースで、来場者へのお土産のアイスを中国人女性が求めたところ、中国人スタッフから「終了した」と断わられた。ところが、後に来た外国人男性に渡している動画が拡散し、中国人差別との批判の声が広まったという。来場してくれた人への「おまけ」をめぐって議論が沸き起こったわけだ。

 

 「アメとムチ」という言葉があるように、教育現場でも学習には直接関係ないもの、おまけで行動を促す方法もある。

 わたしが、小学6年生の担任のとき、クラス全員が長縄を3分間で何回跳べるかを競う「校内なわとび大会」があった。全校がクラス単位で参加する大会で、学年に関係なく記録次第では優勝もできる。最上級のクラスとしては優勝して威厳を保ちたいところだ。ところが、この年わたしのクラスは足並みがそろわず、良い結果を出せないでいた。長縄をひとりひとり跳んで駆け抜けるには、クラス全体の意欲の高揚と心の団結が必要だ。何度も練習したが、記録はのびずじまい。このままだと4年生にも負けるかもしれないという中で本番を迎えた。

 

 なぜあんなことを言ったのかはわからないが、わたしは本番当日「これだけ練習したんだから負けてもしかたない。でも、万に一つ今日の本番で今までの記録を更新して校内一番になったら、先生は君たちにラーメンをおごるよ」

 その結果、だれ一人縄につかえることなく記録は更新され、校内1位。6年生としての対面も保てた。子供たちは大喜びすると同時にわたしのもとに飛ぶように集まって来て、「ラーメン」「ラーメン」の声をあげた。あのときわたしは、教育における「おまけ」の力を目の当たりにしたのだ。

 

 ラーメンは本当におごったのかって? それはわがクラスの永遠の秘密です。

 

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2023年8月 4日 11:53)
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