[68]「一芸」はきっと「くだらない」ことではない
「『無意味な装置』職人競う コロナ機に大会 町工場活気」(2024年2月19日読売新聞朝刊)という記事を、楽しく読んだ。商品になるどころか、全く役に立たない。そんな無意味なものを職人たちが作り、完成度を競う。町工場の人たちが集まって、年に1度「くだらないものグランプリ」を行っているという内容だ。
「一芸自慢集会」のことを思い出す。 小学校では、特別活動のひとつとして、クラブ活動・委員会活動が行われている。そのなかに、集会委員会があった。月2回ほど全校児童が集まって行うゲームやクイズなどを企画運営するのが主な仕事だ。代々受け継がれてきた企画を踏襲していれば、難なくこなせる。
ところが、あるとき「何か新しい企画をつくりたい」という話が子供たちから持ちあがった。アイデアを出し合ってみると、ある児童が「けん玉、自信あるから見てもらいたいんだよね」。その一言から、一芸自慢集会は生まれた。
「空手の形」「チアダンス」「漫才」──。多彩な発表がうけて、この集会は名物企画になり、何年も続いた。一芸は、学校の学習と直接関係ないかもしれないが、それを披露する子供たちは、一人一人が輝いていた。学ぶことは、楽しく「自慢」できるものであってほしい。
働き方改革やコロナ禍の取り組みなどで、小学校の特別活動には形態や内容の変化があり、もう集会の時間もなくなったかもしれない。ただ、いつかどこかで自慢できる「一芸」を身につけておくのは、子供たちにとって「くだらない」ことではないだろう。
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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。