[70]引率とオーバーツーリズム
外国からの旅行者が急増する京都市では、市バスの混雑を緩和しようと、主な観光地だけを割高で巡る「観光特急バス」の運行が始まった。これは6月2日の朝刊に書いてあった。少し前の5月22日朝刊では、富士山がコンビニ店の上にのっているように見えるユニークな風景が黒幕に遮られた記事が目を引いた。交通渋滞や騒音、ごみの増加など、オーバーツーリズム(観光公害)問題の深刻化に対して、各自治体が「あの手この手」を打ち始めている。
旅行者と地元の迷惑、といえば......。
遠足や宿泊行事などで子どもたちを引率したとき、地元の人から、何度か叱責を受けた。「担任の先生はあなたですか。こんなに混んでいる列車に、騒々しい子どもたちを一度に乗せるなんて。迷惑を考えてください」。虫の居所の悪い人から脅されたこともある。
一時的に立ち寄った旅行者によって、日常生活が乱されるのは嫌なものだ。被害者の気持ちはわかる。しかし、被害者が旅行者へ立場を変えることはあるだろう。私に声を荒らげた人も、子どものころは同じように、遠足や宿泊行事に参加していたかもしれない。
互いの気持ちを思いやって行動する。そんなかっこいいことは、そうそうできない。でも、せめて相手の気持ちを素直に聞き、考え、歩み寄り、解決に向けて努力していける社会であったらいいなと思う。
なお、私も叱られてばかりだったわけではない。子どもたちと「車内では一言もしゃべらない」と約束を交わして電車やバスに乗り、「静かで素晴らしいですね」と地元の人にほめていただいたこともある。ただ、正直言うと、こんな思いを持ち続けている。
せっかく友達と一緒なのに、一言もしゃべらない子どもたちでいいのかなぁ?
|
[69]<< | 一覧 | >>[71] |
田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。