[74]盾になる傘
お金や人間関係のもつれなど、犯罪にはかつて、何らかの動機が大抵あった。最近は「とにかく人を傷つけたかった」「相手は誰でもよかった」など、はっきりした理由もなく人を傷つける事件が目立つ。そうした殺傷事件が報じられるたび、恐ろしくなる。子どもたちと接する教育現場に携わってきた者として、私は恐怖を人一倍強く感じているのかもしれない。
そんな中で、読売新聞10月18日付夕刊の見出しに、目を引かれた。「乗客守る『防刃傘』開発」。刃物で切れにくい特殊な布地を張った傘を、JR西日本が開発したそうだ。直径約1.1メートル、重さ約700グラムというから、刃物を持った暴漢から乗客を守る防護用具としては、盾よりも扱いやすそうな気がする。防刃傘、いいアイデアだと思う。
事件や事故、災害にいつ巻き込まれるかわからない時代とあって、通学する子どもたちの持ち物も様変わりした。防犯ブザーや防災頭巾は、いまや必需品だ。ランドセルも水害では救命胴衣、地震ではヘルメットの代用品になると聞く。学校では毎月一回の防災訓練が義務づけられているほか、セーフティ教室や防災教育などの時間も必修とされる。普段から事件や事故、災害に備えるのは、今どきの学校で最も大切な教育の一つなのだ。
その一環として「防犯防災に活用できる、日常的に持ち歩いているもの」を、子どもたち自身に考えさせてみてはどうだろう。携帯ライトやマスク、日よけ傘......。いざという時に備え、アイデアを出し合っておくのは、きっと楽しい。
子どもたちの世界で防犯や防災への意識が高まり、恐ろしい事件事故に巻き込まれなくなることを強く願う。
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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。