[75]季節のイベント、隔世の感
2024年10月31日、ハロウィーンの繁華街は、仮装した人たちでにぎわった。トラブルを防ぐため、東京の渋谷と新宿では区の職員や警察官らが警戒にあたった。そんな記事が、翌11月1日の読売新聞朝刊に載った。にぎわうのも警戒態勢が敷かれるのも、もはや恒例の光景になっている......。
教員になりたての頃だから、40年くらい前だろうか。勤めていた区が課外授業として英語クラブを始めることになり、その担当者の一人になった。講師はNHKの英会話番組にも出演していた米国人の若い女性が務め、授業内容は私たち数人の日本人教員と話し合って決めていた。そして、秋が来た。
「ハロウィーンをやりましょう」。講師の先生から提案があった。当時の私たちには、ほとんど何の知識もなかった。「どんなことをして祝うお祭りなのですか」と聞き返し、最低限の情報を教わった。それから、教室の飾りつけ準備に取りかかった。
都内の街をいくつか回り、ギフト売り場やパーティー用品のある店で、ハロウィーン関連グッズを探し歩いた。だけど、当時はどこにも並んでいない。街中がオレンジ色のディスプレーに彩られる今とは、時代が違う。ようやく、洋菓子メーカーがカボチャの形をした容器にチョコレートを入れて売っているのを見つけた。容器だけというわけにはいかないからチョコレートごと買い込んで、かろうじて教室のディスプレーを間に合わせた。
先日、ある小学校を訪れて「明日は教室でハロウィーン・パーティーなんだ」と楽しそうに語る子どもたちと出会った。カボチャのディスプレーはもちろん、魔女の帽子やドクロの置物など、教室はさまざまなグッズにあふれていた。かつての私みたいにグッズ探しで困っている若手教師なんて、きっともうどこにもいない。隔世の感がある。
繁華街での大騒ぎはいただけない。ただ、学校現場に関して言うと、ハロウィーンのように季節感のあるイベントが加われば、子どもたちの楽しみも増える。基本的には良いことだと思っている。
ハロウィーンもクリスマスも終わって、ここからは日本の年末年始の諸行事が続く。古くから伝承されてきた行事は地域ごとに特色豊かで意味がある。そのあたりは、新しいものにばかり流されることなく、大切に伝え続けたいものだ。お正月に子どもたちが特に楽しみにしているものといえば......。断トツで「お年玉」だろう。まあ、学校行事とは関係ないけれども。
ともあれ、読者のみなさま、2025年もよろしくお願いします。
|
[74]<< | 一覧 |
田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。