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[85]クマ被害と人
クマ被害のニュースが連日のように続いている。止む気配がない状況だ。 ニュースを毎日見聞きしていると、中学校の頃に読んだ吉村昭の『羆嵐』(くまあらし)という実際の事件を基にした小説を思い出した。北海道天塩山麓の開拓村を襲ったヒグマが、わずか2日間に6人の男女を殺害したというものだ。悲惨な現場の状況描写や、なす術のない人間の姿が浮かぶ。連日のニュースは、そんな恐怖を思い起こさせる。
私が勤めていた学校では、「雪国教室」という宿泊行事があった。雪深い地方に冬場に行き、スキーや雪国の生活に触れる活動だ。夜は地元の方から話を聞く機会があり、猟師の方のクマ狩りの話を聞いたことがある。実際にクマに遭遇したらどうするか、と子どもたちが聞くと、「クマは臆病だから、ゆっくりと下がりながら持っているものを少しずつ落としていくと、気を取られる。 その隙に逃げ隠れるのがいい。寝たふりは効かないし、危ないよ」と静かに話してくれたことを覚えている。
だが、最近のクマは、そう簡単にはいかないらしい。すっかり街中で臆せず我が物顔で歩いている。「アーバンベア」と言われ、経験によって人を恐れない"進化"した行動をとるクマだ。クマが人のいる地域に出没するのは、人口減少や過疎化に伴う経済活動の変化が影響している、とも言われている。
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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。