田中センセイの徒然日誌[87]物語自販機

[87]物語自販機

 

 「物語の自動販売機」が設置された、という記事に目が留まった。ボタンを押すと、短時間で読める物語が紙に印字されてランダムに出てくるものだ。読書の面白さに気づくきっかけにしてもらう試みで、海外では広まっている、という。

 ゆかりの地を訪れた時、そこでゆかりの物語に出会う経験は、読書への入り口になりそうだ。

 

 以前、龍飛崎に旅した時、津軽海峡冬景色歌謡碑を見つけた。「へぇー」と、興味深く歌碑に刻まれた歌詞を口ずさみながら眺めていると、傍らにボタンがあるのを見つけた。ボタンを見るとつい押してしまう。途端に流れたのが大音量の石川さゆりの歌声。びっくりして一歩後ずさりしたことを覚えている。特に演歌が好きでも石川さゆりの推しでもなかったが、「津軽海峡・冬景色」は、確実に私の記憶に残った。

 

 こうした偶然の体験は、なかなかのインパクトを与えてくれる。それが意外性に富むものならなおさらだ。記憶にもしっかり刻まれる。

 

 意外性を入り口にした授業は、子どもたちの興味関心を高めるとともに、持続的な学びを促してくれる。体験の中で知的な学びの世界に誘う。そんなアイデアあふれる授業は、「黙って静かに授業を聞きなさい」からの脱却になるだろう。

 

 AI(人工知能)とともにある今の世界においては、体験の中で得られる意外性や偶然の出会いが、教育の手がかりになるのかもしれない。 

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2026年5月11日 13:00)
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