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失われていく「感覚」
2020年12月2日
神奈川県の上(北)には、東京都がある。だから、東京に向かう電車は北に向かって走っていて、右手に海(東京湾)が見える。帰りは南に向かう電車に乗って帰る。横浜で育った私にとっては、いつの間にか身についていた感覚です。
しかし、二人の子どもはそろって、都道府県の位置と名前を覚えるのに苦戦していました。横浜に住んでいるのに、関東地方の県の位置すらわからず、「東京って神奈川の上だっけ、下だっけ?」などと言っているのです。
確かに、電車に乗るときは、携帯電話のアプリが乗換案内を教えてくれるし、あとは交通系ICカードを改札でかざすだけ。路線図を見たりはしません。車に乗ればカーナビがあります。生活の中で、地図を見る機会は激減しています。そこで「天気予報を見ていたら、なんとなくわかるでしょう?」と言うと、「ケータイの天気予報アプリが、雨が近づいたら教えてくれる」。返答は私の想像を超えていました。
方向感覚を持つことなく育ってきた子どもに、地理を一から教えるのは大変だろうなあと、先生方のご苦労を思います。「子どもの生活経験が乏しくて、学習にも支障が出ている」と言われてきたのは、こういうことを指していたのか、と痛感しました。と同時に、変わっていく子どもたちに、今までと同じやり方で同じ内容を教えることは難しく、親も自分自身の感覚でなぜこんなことがわからないのだろうと考えてはいけないのだろうな、とも思うようになりました。
最先端のサービスと引き換えに、現代っ子から失われてゆく「感覚」。子どもたちと日々接する先生という仕事は、それをいち早く感じ取り、十数年後の日本人に足りないこと、苦手なことを、予測できなければならない職業なのかもしれません。
便利な道具に囲まれている子どもたちを見ていると、ふとそんな風に感じます。(悠)
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