WS編集部より(16)23年ぶりの親子の時間

「読売ワークシート通信」のメールマガジンから、記者コラムの一部を紹介します。

 

23年ぶりの親子の時間


2021年2月24日

 

 2月末を迎えると、全国で「一斉休校」の号令が出されてから1年となります。感染症の災禍はその後、各方面に広がりましたが、真っ先に「教育のロックダウン」に直面した先生方や子ども達、その家庭の皆さんの衝撃と心労を改めて思います。

 

 この1年を振り返ると、西暦がイエス・キリストの生誕で「紀元前」と「紀元後」に分かれるように、私たちは「コロナ前」と「コロナ後」の転換期を生きているのだと感じます。歴史や思想上の整理はプロに任せるものの、生活者の一人として、「コロナ前」には考えられなかった経験をこの1年でしてきたと思うからです。

 

 昨年の緊急事態宣言で、首都圏では「在宅ワーク」が拡大し、記者になって初めて「家にいる生活」が奨励されました。娘が生まれた後も、離婚して母子家庭になってからも、近所の実家を頼りに記者を続けてきて、娘は「夕飯は祖父母と」という生活で育ちました。思えば、平日に夕飯を親子で食べるという習慣が我が家にはありませんでした。

 

 ところが、大学に行けず自宅学習になった娘と毎日、家にいて、夕飯も一緒に食べるという日々になり、「こんなに一緒にいるのは、23年前の育休以来だ」と気づきました。そして、忙しさにかまけて娘に伝えてこなかった暮らしの細々した知恵──皿の油汚れは紙で拭ってから洗う、米のとぎ汁は植物に与える、旬の野菜を旬の時期に食べる、など──を初めて伝える機会になりました。

 

 乱雑な育児をしてきたことを含め、「コロナ前」を反省しながら、特別に与えられた「親子の時間」や様々な「気づき」を大切にせねばと思うようになったのでした。

 

 いま、壊れた食器を直す「金継ぎ」や欧州式の服の繕い術「ダーニング」などがブームになっているのも、丁寧に暮らす昔の知恵を見直し、生き方を転換しようとする動きなのだと感じます。コロナ禍の先に、よりよく生きる「コロナ後」を作ることができたなら、この1年の苦しさにも意味が生まれてくる──と感じます。(智)

 


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(2021年2月27日 08:30)
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