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産まない方が、子供のため?
2021年10月20日
東京都内の大学で「少子化」をテーマに授業を行いました。私からデータや取材情報を踏まえた講義を行い、学生たちは事前に調べてきた原因分析や自分の考えを発表することになっていたので、その討議の時間が楽しみでした。
各自が考えてきた解決策を発表してもらうと、「育休を取れる企業を就活で選ぶ」「出生率が高い地方の取り組みを広げる」「男性が稼ぎ、女性が家事育児という固定観念を捨てる」「社会全体で子育てを大切にする風土を作る」などなど、さすが大学生と感じる意見が次々と出てきました。
そのなかで、1人の女子学生が「この先の社会を考えると地球温暖化など問題が多い。子どもの幸せを考えたら、産まない方がいいのかなと思う」と話しました。すると、他の学生も「同じように感じる」と賛意を示したため、目の前の若者たちが胸に抱く「未来への希望のなさ」が伝わってきて、衝撃を受けました。
親を選べないことを諦めまじりで表現した「親ガチャ」という言葉が若者の間で使われています。超高齢化や温暖化が進む未来に希望が持てないことを、攻略不能なゲームに例えて「無理ゲー社会」と表現した本も話題です。日本の厳しい未来は私も認識していたものの、その切実さの実感が世代で相当違うことを知らされたのでした。
それなら、講義で伝えるべきは「少子化で大変な時代が来る」ことではなく、「少子化に直面しても乗り越えた国がある」という突破法の方だったと後から気付きました。気候危機の抗議活動を1人で始めたスウェーデンの少女のように、現状に反発し、改善していく力を日本の子どもや若者も持てるように応援することが、大人の1人として自分に課せられた責任かもしれない。モヤモヤした気持ちをひきずりながら、そう思いました。(智)
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