ビブリオバトルで輝く山形中央高の4人《記者のじぶんごと》

ビブリオバトルを熱心に探究する山形中央高校の4人。左から小和田さん、佐藤さん、長沢さん、足立さん

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 記者になった1996年から5年半、私は読売新聞山形支局に勤めた。当時の取材先や記者仲間のうち何人かとは今でも親しいし、妻の実家がある山形市にも折に触れて顔を出してきた。山形弁も、そこそこ分かる。月並みな言葉だが、山形は私の「第二のふるさと」だ。

 

 いま、東京の教育ネットワーク事務局で担当する仕事の一つに、書評合戦「ビブリオバトル」の全国大会運営がある。そのビブリオバトルの普及活動で、山形の高校生たちが独自の取り組みを展開してくれている。「じぶんごと」として、うれしくてならない。

東北芸術工科大の学生や教授とのビブリオバトルも経験(探究学習の発表スライドから)

 県立山形中央高校(山形市)に通う小和田琉惺さん、佐藤颯太さん、足立実加さん、長沢遼大さんは、1年生だった2024年度、必修科目「総合的な探究の時間」のテーマにビブリオバトルを選んだ。学校司書の小野寺愛さんからの薦めに「本が好きだから」、「交流関係を広げたい」、「新しいことに挑戦したい」と様々な理由で共鳴し、探究チームを結成した。

 予備知識は全員ゼロだった。1人5分間で好きな本を紹介し、2~3分ずつの質疑を経て、全員の投票で「一番読みたくなった本」をチャンプ本に選ぶといったルールも、公式サイトを見て初めて知ったという。そんな初心者だった4人が、探究学習が本格化した秋以降、驚くべき行動力を発揮する。

 

 まずは10月、発表時間3分のミニビブリオバトル大会を学校内で3度開き、出場と開催・運営を初体験した。校内大会の記憶が鮮明なうちに、山形市内の東北芸術工科大学を訪ねる。大学生相手のビブリオバトルに挑み、教授から発表のコツを手ほどきしてもらった。月末には市立図書館の一角を借り、高校生から社会人まで幅広い世代とのビブリオバトルを楽しんだ。

 翌11月の下旬には「全国高校ビブリオバトル2024山形県大会」に出場した。「二木先生」(夏木志朋著、ポプラ社)を紹介した足立さんが、全国大会の出場権をかけた決勝バトルに駒を進める健闘をみせた。県大会の出場者と聴衆に対する独自のアンケートも実施した。足立さんによると「回答者の7割以上が紹介された本に興味を持ち、6割近くが本の面白さを他者と共有できると答えた」という。

「やまがた読書会」と連携した大会も開いた(探究学習の発表スライドから)

 県大会挑戦が終わっても、4人は立ち止まらない。趣向を凝らしたビブリオバトル大会を山形市内で次々と開催し、交流の輪を広げていく。12月は地元の読書会と連携して県立図書館で、2025年2月は作家・根本総一郎さんのトークセッションを併せて市立図書館で、3月は文化・芸術イベントの一環として県総合文化芸術館で──。

 そして年度末の3月、東京大学(東京都文京区)で開かれた探究学習の全国コンテスト「全国高校生マイプロジェクトアワード」出場を果たす。この1年間の探究の軌跡を「ビブリオバトルで自分の世界を広げようプロジェクト」と題し、全国から集った高校生や教育関係者の前で発表した。要点をまとめたスライド画像を上映しながら代わる代わるマイクを握り、計約20分間(質疑を含む)にわたって語った。4人はそれぞれ、こんな言葉でビブリオバトルの魅力を表現した。

 

 小和田さん「本を読まなかった人が読むようになるうえ、全国大会出場という夢を持てる」

 足立さん「人と人が出会うきっかけになるし、コミュニケーションが促進される」

 佐藤さん「苦手だったジャンルの本でも、人の発表を聴いて読みたくなることがある。本好きの世界が広がっていく」

 長沢さん「年齢や肩書、性別、障害の有無などの壁を超え、地域の人とつながり合える。自分たち若い世代の読書人口も増やせると思う」

 

 発表後、聴衆の拍手に包まれた4人はすがすがしい笑みを浮かべた。取材した私も楽しい気持ちになるような、心温まる会場の光景だった。

全国高校生マイプロジェクトアワードで探究学習の成果を発表(上)耳を傾ける聴衆

 2年生に進級した4人は今年度、自分たちより少し年下の世代に目を向けて、中学生へのビブリオバトルの普及活動に力を入れている。

 山形県で、全国大会の予選を兼ねたビブリオバトルの県大会は高校生しか行われていない。中学生の県大会を実現させようと、4人は県教育委員会や県立図書館、地元の大学関係者らに働きかけている。手分けしていくつかの中学校を巡回して校内ビブリオバトルを運営しつつ県大会の出場希望者を増やしていく計画も立てているという。活動を見守る学校司書の小野寺さんは「4人の熱心な活動で、中学ビブリオバトル開催の機運が県内で高まってきた感じがする」と手応えを口にする。

 

 全国中学ビブリオバトルの予選は昨年度、各府県教委や地元大学などの主催で18大会が行われた。しかし、高校生たちの働きかけが実を結んで開催されるようになったという大会はない。前例のない快挙は今年度、山形県で実現するか。

 期待を込めて、4人にエールを送らせていただく。「まず、がんばってけらっしゃい!」

(込山 駿)


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(2025年6月10日 10:30)
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