らしいか、らしくないか《記者のじぶんごと》

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 東京都立高校で今春から「ブラック校則」が一部廃止されたという。その中に「『高校生らしく』など曖昧で誤解を招く指導」があった。こうした指導がごく最近まで行われていたのかと少々驚いた。

 校則に限らず、「らしくあれ」という圧力は以前から問題になっていた。「記者のじぶんごと」の執筆陣の一人、鈴木美潮記者も17年も前に読売新聞のコラム(2005年4月12日夕刊)で取り上げている。まゆ毛をそって細くした野球部の選手が多い高校を日本高野連が注意したことについて、「高校時代の3年間しか通用しない『らしさ』の押しつけに何の意味があるのか」と苦言を呈している。

 

 「らしさ」の押しつけがいかに無意味かは、堀江謙一さんが身をもって示してくれた。世界最高齢の83歳でヨットによる単独無寄港の太平洋横断に成功した堀江さんは、6月5日の帰港セレモニーで「青春の真っただ中。まだまだ若輩なので大器晩成を目指し、これからも頑張りたい」と語った。

 80代らしく過ごしてほしい、などと堀江さんに言う人はいないだろうし、堀江さんが従うはずもない。年相応に振る舞うのは、堀江さんらしくない。

 

 5、6年前のことだったと思う。発熱した長女を小児科に連れていき、待合室で診察を待っていた。すでに3組ほどの親子がいて、それぞれが絵本を読み聞かせたり、子どもにスマホをいじらせたりして時間をつぶしている。後から来た母親と息子と思しき2人が、本棚から絵本を抜き取って私たちの向かい側のソファに腰かけた。

 「あるところに、お母さんやぎと7匹の子やぎが住んでいました......」。朗読が始まって、待合室のほぼ全員が声の主を見た。男性の声だった。だが、驚きの中心はそこではない。母やぎ、子やぎ、オオカミの声色を使い分け、強弱をつけて物語を引っ張っていく。次第に大人も含めて待合室にいた全員が耳を傾けていた。

 2人が母子らしく見えようが見えまいが、実際にどんな関係であろうが、診察までの20分間か30分間、傍らの男の子の不安をやわらげ、退屈させないようにしたいという気持ちが朗読の声にこめられていた。小児科の待合室で必要なことはほかに何があるだろう。

 

 「中学生のときに不登校になり、高校に入学してもうまくいかず半年で休学。通信制高校に編入学して、同級生よりも1年遅れて高校を卒業しました。学歴はありません。きっと私のような人間を負け組と言うのだと思います」

 読売新聞の人生案内に寄せられた20代のアルバイト女性からの相談だ(2022年6月18日)。「醜くて自分のことがどんどん嫌いになります。私は何のために生きているのでしょうか」

 彼女の問いにスポーツ解説者の増田明美さんが答えている。「あなたは勇気をもって相談してくれました。自分の思いを吐き出して、今スタートラインに立っています。ここからです! 好きなことを再び探し始めませんか。不登校などを経験したあなただからこそ、出来ることもあると思います」。そして、こう結ぶ。「アジサイも色を変えながら自分らしく咲いていますよ」

(橋本 弘道


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(2022年6月29日 18:50)
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