「赤字路線」に住みたいですか?《記者のじぶんごと》
23.
夏休みに子ども2人を連れて、母が住む福岡県の実家に帰省しました。
驚かされたのは、空港からの高速バス便の数の少なさ。以前は1~2時間に1本出ていた便が、1日3往復に激減。1時間あまりローカル線に揺られることになり、コロナの爪痕の深さを思い知らされました。
ところが、東京では滅多に見ることのできない風景に、4歳の長男は大喜び。単線区間の駅でのすれ違いに「ぶつかっちゃうよ!」と大興奮です。自動改札も無い山間部の無人駅を見た小5の長女は、「切符は誰がチェックするの?」と驚いていました。
目的の終着駅は、乗り入れる第三セクターも入れると6つのホームに引き込み線も備えた立派な駅です。「昔は石炭の積み出しで賑わったのよ。汽車の煙でスズメも真っ黒、とか言われたらしいけど、今はみんな車やけんね」。閑散としたホームで、出迎えた母がつぶやきました。
遠出も避けたため、暇を持て余した子どもを連れて駅前の商店街を散策してみました。「密は無いから、安心して」と母が言うとおりの「シャッター通り」で、行きかう人もまばら。それでも、若い経営者が営む雑貨屋や、テレビでも度々紹介されているというお洒落な自転車屋もあり、歩いてみればそれなりに魅力あるまちにも思えました。
滞在中、JR九州から「赤字路線」が発表されました。私たちが揺られた路線の一部もしっかりと、名を連ねていました。モータリゼーションに加えて、コロナも追い打ちとなったローカル線はどこも青息吐息です。「電車もなくなったら、おばあちゃんに会えなくなるじゃん!」と憤る長男を見ながら、そんな元気のないまちを離れて東京で暮らす我が身の勝手も思い、考え込んでしまいました。
東京への帰路もまた、同じローカル線に揺られます。ところが、福岡市の中心部が近づくにつれ、どっと人が乗り込んできて、足の踏み場もないほどの混雑ぶり。それなりに通勤や買い物の需要はあるのかもしれません。「このあたりを掘り起こせば、廃線にはならないかも」とぼんやり考えていると、「この人たちがみんな、商店街に来てくれたらいいんだよ!」という長女の言葉にはっとさせられました。
大人はつい「ここには何にもないから」と言ってしまいがちです。「まちおこし」という言葉を跳ね返す厳しい現実があることも知っています。そんな思い込みから離れた子どもたちの発想は、みんなが希望を持って住み続けられるまちをつくるヒントになるでしょう。
親が後にした地方のまちの魅力。都会で暮らす子どもたちが気づき、祖父母たちと一緒に住み続けられるまちづくりの主役になってくれたら――。そんな2030年の未来を空想した、5日間の帰省でした。
(石橋 大祐)
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