旧姓併記だと利用できないアプリ《記者のじぶんごと》

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 足元をすくわれるというのは、こういうことを言うのだろうか。

 政府が2021年12月20日から運用を始めた新型コロナウイルスのワクチン接種を証明するスマートフォン向けアプリのことだ。スマホにダウンロードし、手続きを始めようとしたら利用上の注意画面で自分が「接種証明書の発行ができない方」に該当するとわかった。理由はマイナンバーカードに旧姓を併記しているためだ。デジタル庁は早急に対応するとしているが、ないがしろにされた感は否めない。

 

 結婚後も戸籍名と異なる旧姓で仕事をして30年になる。夫婦別姓にさまざまな意見があるのは承知しているが、1994年7月12日に法制審議会民法部会が夫婦別姓を認める民法改正の要綱試案をまとめた時には時代の変化を感じた。翌日の朝刊社会面には、私が描いた図案を基にした3つの試案イメージが載っている。

 しかしいまだに民法改正は実現していない。

 

 

 私は一会社員として仕事で旧姓を使い、行政手続きなどは戸籍名で行う。明確な線引きは難しく仕事関連で戸籍名を示す必要があったり、学籍に旧姓使用を認めてもらったりなどもあった。郵便局で旧姓の書留郵便などを受け取るにも旧姓の身分証が求められるし、2つの姓を使う自分が同一人物であることを証明する場面もある。新旧の姓がそろった証明書といえば戸籍抄本だが、これは発行後に有効期間があり、常時手元にあるわけではない。

 だから2019年11月に住民票とマイナンバーカード、翌12月には運転免許証に旧姓が併記できるようになってすぐにそれぞれ手続きをした。必要だからに他ならない。

 

 そして今回の「接種証明書の発行ができない方」である。

 デジタル庁は12月22日現在、公式アカウントで、この件について、以下のように記載している。

■旧姓併記のマイナンバーカードをお使いの方へ

 旧姓併記についても対応すべく準備していたところ、実装・設計の適切さを検証するテストがまだ十分にできず、初回リリースに間に合わせることが叶いませんでした。なるべくはやく、皆様にご利用いただけるよう準備を進めて参ります。

 旧姓併記のマイナンバーカードをお使いの方は、お住い(ママ)の市区町村の窓口で紙の接種証明書の発行をお願いします。紙の接種証明書でも、本アプリの証明書でも証明書としての効力は同じですのでご安心ください。

 内閣府はマイナンバーカード制度の目的として、(1)公平・公正な社会の実現(2)国民の利便性の向上(3)行政の効率化――の3点をあげている。デジタル庁は社会のデジタル化を推進する司令塔としてマイナンバーカードの普及推進も担っているはずだが、今回、旧姓併記という要因で公平に扱ってもらえなかった。旧姓併記のマイナンバーカードは身分証としては優位でも、肝心のデジタル機能にリスクがあったのだ。

 

 ところで旧姓を併記した身分証を持つことは特別なことなのだろうか。

 2020年の婚姻件数は約52.5万組、離婚件数は約19.3万組を数える。既婚男性の9割はご存じないと思うが、1組あたりの改姓手続き件数から年間総件数を考えてみてほしい。社会保険、金融機関、クレジットカード、保険、スマホの手続きは全員だろうし、仕事関連、ネット関連でも様々あるだろう。いずれも改姓の前後を証明する戸籍抄本のような証明書が必要となる。

 女性の平均初婚年齢は29歳超。旧姓使用の有無にかかわらずマイナンバーカードや運転免許証に旧姓を併記することは婚姻時の必要手続きになっていくのではないか。

 

 ネット社会であらゆる場面で登録やパスワードが求められ、記号としての「名前」はより重要になっている。別姓論議とは別に、婚姻や離婚に伴う改姓手続きのコストや効率化について、もっと議論されていいように思う。そしてマイナンバーカードに運転免許証など新たな機能が加わるときは、今回のアプリのように公平に扱われなかった痛みをだれも感じることがないですむよう願っている。

(笠間亜紀子


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(2021年12月27日 10:53)
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