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「異次元の少子化対策」への期待《記者のじぶんごと》

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 岸田首相が1月4日、年頭記者会見で今年の優先課題の一つに「異次元の少子化対策」をあげた。昨年の出生数が初めて80万人を割り込む公算が高いことに触れ、「これ以上放置できない課題だ。出生率を反転させなければならない」と語った。〈1〉児童手当などの経済的支援の強化〈2〉学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充〈3〉働き方改革の推進──を3本柱に進めるという。東京都は第2子の保育料無償化や18歳以下の都民に月5000円の給付などを始める。

 

 1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率に関心が集まったのは、1990年だった。前年の1989年の数値が1.57で丙午(ひのえうま)のために過去最低となった1966年の1.58を下回ったことから「1.57ショック」として注目され、少子化対策が始まった。合計特殊出生率は2005年の1.26を底に2015年には1.45まで上昇したが、コロナ禍もあって2021年には1.30となった。昨今の値上げラッシュを考えると、経済的支援の強化で子育て世帯はひと息つけることだろう。

 

 少子化が深刻なのは高齢化とセットとなって社会全体への影響が大きいためだ。そして株価や為替などと違って人口に関する値は集計に時間がかかり、人口減が静かに進んでいく怖さがある。「スクープ 日本の人口がついに減り始めた!」という記事を書いたのは、2004年12月27日発売の週刊誌「Yomiuri Weekly」(2005年1月9・15日号)だった。総務省が毎月1日現在の数値を集計して出す「日本人人口」の値が2004年5月時点で戦後初めて前年同月比で減少したことを報じた。「日本の人口」という場合、総人口を指すが、日本では移民や外国人労働者を受け入れる制限が厳しく「日本人人口」も重要指標だ。戦後初の出来事とあって、私は記事を「日本社会は歴史的転換点を迎えたとみたほうがいい」と結んだ。

 

 

 当時は国立社会保障・人口問題研究所の将来推計に基づき、2006年をピークに2007年から減り始めるとされていた。だが、推計は「高位」「中位」「低位」という3つの合計特殊出生率ごとにあり、低位の推計では人口減は2005年からだった。

 

 総務省の人口推計(2021年10月1日現在)によると、日本の総人口は2005年に戦後初めて前年を下回った後、2008年に1億2808万人でピークを迎えて2011年以降、減り続けている。一方、生産年齢人口(15歳から64歳)は1995年の8726万人をピークに減り始めており、総人口に占める割合も2021年は59.4%で、統計を取り始めた1950年以降最低を更新している。

 

 岸田首相は少子化対策を「放置できない」と語ったが、30年にわたる日本の少子化対策で何が放置されてきたのだろうか。

 取材現場を離れて両立支援業務等を担当していたとき、制度利用者と非利用者との間に溝があると感じたことがある。子育て中の社員が複数、制約のある働き方をしていると、カバーする社員が長期にわたって固定的になる場合があるためだ。「お互いさま」「寛容」という言葉では割り切れないことがあっても無理はない。

 

 国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部第1室長の守泉理恵氏は「日本における無子に関する研究」(2019年)で日本人女性では1960年代生まれ以降、子どもを産んだことがない(無子)割合がかつてない水準にまで伸びていることを明らかにしている。1965年~1970年生まれの無子割合は2割に達していた。また25歳から39歳で子どもをもたない選択をしている場合、低収入や交際相手がいないなどで子どもを持つことをあきらめている層が多い可能性が示唆された。社人研は2017年の将来推計人口で、2000年生まれの女性では50歳時の無子割合が31.6%に達すると推計しており、数値がよりリアルに感じられる。

 

 こども政策の司令塔として4月に「こども家庭庁」が発足する。縦割り行政では対応が難しかった課題にも力を入れるという。結婚するかしないか、子どもを持つか持たないかは個々人の選択による。しかし、日本では自ら選ぶことができる層とあきらめざるを得ない層とに分断されつつあるように思う。私個人は諸事情から子どもを複数持てなかった。既婚者への出産・子育て支援はもちろんだが、それだけにとどまらない多角的な少子化対策を期待したい。

(笠間 亜紀子


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(2023年1月23日 16:09)
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