草野球しようぜ!《記者のじぶんごと》
38.
「お久しぶりです。急なお願いで申し訳ありませんが、月末の火曜日、試合をしませんか?」
10年ぶりにメールをくれたのは、都内で活動する草野球チームのキャプテンでした。
新聞紙面の見出しやレイアウトを担当する編成部に在籍していた当時、職場の仲間で作るチームのキャプテンをしていた私の最大の役目は、月1、2回の練習試合の相手を探すことでした。
朝刊の紙面制作は、夕方から深夜にかけての作業が中心です。土日も部員の誰かは勤務シフトに入っているため、全員の時間が合うのは平日の午前から午後の早い時間だけ。自然と練習試合の相手も限られます。大学生はもちろん、平日に定休日がある車のディーラーや百貨店、新宿・歌舞伎町のホストたちで作るチームと対戦したこともありました。
勝っても負けても、気持ちよく汗を流した後で、眠い目をこすりながらも紙面制作ができたのは、まだぎりぎり30代だったからかもしれません。5年前に今の部署に異動したことをきっかけに、草野球からは引退してしまっていました。
「今はもうチームではやっていないんです。すみません」と断りのメールを送ると、「なかなか対戦相手が見つからなくて、お声がけしました。また機会があればよろしくお願いします」という丁寧な返事。「野球離れ」が指摘される中、マッチメークに腐心する同世代の苦労を思い、考えさせられてしまいました。
笹川スポーツ財団による「スポーツライフ・データ(スポーツライフに関する調査)」によると、20代以上で「年1回以上野球をする」という人は、2014年まではほぼ横ばいだったものの、16年からは減少傾向が続いています。22年は268万人と、00年の597万人に比べると、実に300万人以上も減っているそうです。
少子化に加え、サッカーやバスケットボールなど他のスポーツに関心が移っていることも考えられますが、「そもそもボールやバットに触ったことがない」という子どもも増えています。私自身、昨春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での日本代表の活躍に触発され、6歳の長男とキャッチボールをしようと近所の公園に行ってみたものの、「キャッチボール禁止」の貼り紙を見て、がっかりして引き返してきました。
そんな中、話題を呼んでいるのは、WBCでも活躍した大谷翔平選手が全国の小学校に寄贈したグラブです。
「せっかくの頂き物だから、全校のみんなに一度は触らせたいんです」と、出前授業でお邪魔した都内の小学校の校長先生が話してくれました。低学年の子どもでも楽しめるよう、キャッチボール入門用の柔らかいボールをポケットマネーで購入し、昼休みや中休みなどを使って、300人を超える全校児童に順番で楽しんでもらっています。最初はぎこちなくグラブをはめる子どもたちも、すぐに思い思いのフォームでキャッチボールできるようになるそうです。
実は私も、たまたま大学の講義で隣に座った友人に誘われて軟式野球を始めるまで、本格的なキャッチボールをしたことはありませんでした。その分、大きなけがもなく、40代まで草野球を続けることができました。
スター選手への憧れだったり、友達に誘われたことだったり。子どもたちが野球に興味を持つきっかけは様々でしょう。いつの日か、長男が「キャッチボールしようぜ!」と言い出してくれる日を信じて、すっかり固くなった四十肩のストレッチを続ける毎日です。
(石橋 大祐)
前へ | 次へ |