SDGsトーク 特別編 3/9「『やりたい』を待つ」
新渡戸文化小中学校・高校
新渡戸文化学園小学校・中学校・高等学校(東京都中野区)の山藤旅聞先生と、田中孝宏・読売新聞教育ネットワークアドバイザーによる対談「SDGsリレートーク『じぶんごと』からはじめるために」特別編の第3回。国や人のために学ぶブータン人の姿勢から、社会課題を教育の題材にすべきと気づいた山藤先生の取り組みについて語ります。
まとめ:住吉由佳(教育ネットワーク事務局)
山藤 ブータンの子たちのように、国のために、人のために、ってなったら、何を題材にすればいいんだろうと思った時に、ああ、社会課題だなと思いました。新聞などを使って社会課題をまずは知る。日本から国内、国外と世の中の時流を知る。
そして、そこで初めて教科書を開いて、「生物の教科書を学ぶ価値を見出せましたか」と聞いた後に教科の勉強を始める、というスタイルに変えていきました。ブータンから帰ってきて切り替えたんです。
社会課題
地球温暖化、戦争、食糧難、エネルギー問題など、人の安全を脅かし、世の中で解決すべきと考えられる課題のこと。
田中 社会課題っていうのは、そもそもSDGsですよね。
山藤 そうですね、当時は2012年だったんで、まだSDGsって言われていなかった時代です。
田中 世界的な問題とか、解決しなければいけない問題とかいう言い方をしていた。ユネスコのESDの流れからSDGsという目標が出てきた。山藤先生はその時流が、ちょうどぴったり合った。
ESD
持続可能な社会を創造していくことを目指す教育(=Education for Sustainable Development)。1980年に生まれた「持続可能な開発」という概念から、2002年に国連で採択された「持続可能な開発のための教育の10年(UNDESD、国連ESDの10年=2005~2014年)などを経て、2015年に国連サミットで提唱された目標・SDGsにつながった。
山藤 当時は森林伐採と日本の消費とか、地球温暖化と自分たちの暮らしなど、「環境問題」をテーマにすることが多かったんです。そうしたら、2015年にSDGsが採択されました。
田中 SDGsを先に掲げて学びを進めると、うまくいくとは思えない。山藤先生がおっしゃるように、まず社会課題から入って、その後からSDGsに触れる考え方が正しいと思っています。
山藤 そうですね。私は今、なるべくSDGsという言葉は使わないんです。生徒が見つけてきたら説明するという順番にしています。
田中 今、読売新聞では、「じぶんごと」という言葉を使っているんですけど、ブータンの子たちは、国のためにやらなきゃいけないという「自分事」ですよね。日本の子どもたちが自分事にするためには、まず意欲や、やる目的がしっかりしないと、何も起こらないと思うんです。
自然豊かなブータンの学校・校庭に集まる生徒たち(2012年) |
余白と空白を確保する
山藤 分かりやすくいうと、待つしかない。I wantかI wishが生まれるかどうかですから。「与えすぎない」ことも大切で、生徒に余白と空白を確保する。空腹になって「やりたい」が生まれないと、きっとダメだと思っています。たくさん与えてしまえば、自分たちで新たに考える機会をどんどん失っていくと思います。
田中 そうですね。
山藤 今回のコロナ禍は大変ですけど、学校に行けなくなったことで、子どもたちに聞いたら、みんな「学校へ行きたい」って言うんですよ。
それで、何のために学校へ行きたいのか、って聞いたら、「友達に会いたい」「先生と話したい」、最後にちょっと「やっぱり勉強もしたい」と返ってきました。この本当に欲求している気持ちが大切。ブータンの子たちは、国を発展させたい、こういう未来にしたいと根底に思っていて、そこに空腹がある。ほしいから学ぶ。けれど、日本は満たされてしまっている。
1回、全部なくして、でもできるんだから自分でやってごらん、っていうような教育スタイルや時間が必要かなって思います。
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