SDGsトーク 特別編 4/9「コロナ禍が『じぶんごと』に」
「コロナに関する学び×あなたの好き・挑戦」の取り組みで生徒が仕上げた作品
新渡戸文化学園小学校・中学校・高等学校(東京都中野区)の山藤旅聞先生と、今年3月まで小学校長だった田中孝宏・読売新聞教育ネットワークアドバイザーとの対談「SDGsリレートーク『じぶんごと』からはじめるために」。社会課題を題材にして教育に向き合い続けてきた山藤先生に、コロナ禍という社会問題に直面した子どもたちの様子について聞きました。
まとめ:住吉由佳(教育ネットワーク事務局)
山藤 SDGsの教育にもつながると思うんですが、人々が賢く協力すればコロナは収束する、1人1人の活動が社会課題を解決していくことを、子どもたちが理解している学びの最中です。
昨年、こちらの学校に来てから、まずは中学校で、教科横断的・プロジェクト型学習を週1回は行っていました。手応えがあり、今年度は中学校3学年での展開と、高校1年生への導入を予定していたところ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で高校3学年でオンラインを活用しながら、一気に教科横断的・プロジェクト型教育の導入を実施できることになりました。予定より3年ぐらい早まったように思います。
新渡戸文化学園小中・高校のプロジェクト学習
未来の地球の作り手を育むことを目的に、子どもたちの「知りたい」「やりたい」を子ども発信でイベントや体験学習につなげ、さらに社会と結びついたプロジェクトを創造していく学習。複数の教員がチームティーチングしながら教科・教室の枠を越えて児童生徒ともに考える授業スタイルで、持続可能な社会に向けたカフェつくりプロジェクトや、学校にある廃棄物を再利用するプロジェクトなどを実施。
田中 具体的に、コロナ禍でどういう流れだったのですか。
山藤 今年2月、コロナの危険性を感じ、オンライン授業を手段にする方向性を全職員で検討し始めました。Zoomでオンライン授業ができることが分かり、4月に1回だけ生徒に登校してもらい(分散型登校)、生徒一人ひとりに学校で作成したアカウントを配布し、自宅のデバイスからgoogle classroomやZoomに登録する、っていうことをしていただいたんです。デバイスのない家やWi-Fiのない家には学校からセルラーモデルのデバイスをお貸ししました。その結果、全校生徒にインフラが整ったことを確認し、4月9日から本格的にオンライン授業をスタートさせました。
でも、最初の2週間は、「君たちと先生たちとで行っているオンラインでのやりとりは、学校生活や授業として成立していると言える?」「君たちは今、不安の渦の中にいるけれど、少しでも安心できる?」「君たちの安全って何?安心って何?」などと問いかける授業を行いました。全職員と全校生徒とのオンライン・対話型授業です。
オンラインも教育手段の一つに過ぎないので、生徒の心配、不安を解消して、やりたいという気持ちを引き出すことができるかをしっかり議論したんです。「リアルタイムでコミュニケーションができれば、学校生活や授業と言える」って生徒たちが言ってくれ、オンラインを続けようということになりました。
コロナ禍の今しかできない学び
山藤 結果的に先生と生徒との双方向性のオンライン授業を実現することができました。オンライン授業に慣れてきたことで、このツールを活用してやってみたい授業があるかを全校生徒に聞きました。オンラインを活用して、いろいろな人と繋がりたいという声がどんどん出てきました。スポーツ選手や企業の人たち、デザイナー、大学教授、ミュージカル俳優、海外在住の人、大学生、留学生、卒業生、地方の高校生など、様々な世代、業種の方々との対話授業も実現しました。
続けて、今本当に学びたいことは何かと、生徒たちに聞いてみると、高校生はコロナが怖い、コロナのことをしっかり学びたい、という気持ちが強いことが分かりました。そこで、京都大iPS研究所所長・山中伸弥教授のホームページや新聞の記事を教材に、各自で学んでレポートや作品などにまとめ、学んだ結果を披露し合いました。
すると、生徒たちから「分かったことを大切な人に伝えたい」という声が出てきました。学校のホームページで発信してはどうかという意見もありました。自分の得意なことや好きなことを掛け算して、コロナの学びを表現してみようというプロジェクト型学習に発展していきました。
絵が好きな子は絵を描いてきたり、音楽が好きな子は音楽に乗せてコロナの勉強を伝えたり、詩を書いたり、写真を撮ったり、実に様々な作品が出てきた。歌手の星野源さんの「うちで踊ろう」が話題になりましたが、生徒たちからは、もっと前にそうしたアイデアが出ていました。
田中 音楽作りをする生徒も出てきたんですね。
自分らしさをかけ算させる
山藤 唯一、僕がファシリテーター(進行役)として生徒たちに伝えたのが、「君たちらしさを掛け算させてみませんか」ということだけです。真剣に学んだら、子どもたちは家族に伝えたいと言うようになりました。
どうやって伝えるかについては、僕が「高校生らしさ掛け算させて」と言ったら、高校の女子生徒たち、お化粧したいんですね、ネイルでStay homeって書いて写真を送ってきた(笑)。
「楽しくStay home(家にいよう)」を呼びかける高1女子生徒のネイルアート作品 |
田中 ははは。
山藤 ほかには、ケーキを作って、「こんな時だからこそ、お父さんに感謝する」という生徒もいました。医療従事者の家族がいる子は「頼むからみんな家にいて」と訴えました。「うちの母は本当に疲弊しています」と言いながら、その子は糸電話の絵を描いてきた。「私のできることは小さい。でも糸電話なら確実に1人に伝えられる。一人でいいから伝わって」というメッセージの絵で、感動しました。我が校のホームページで学んだことを発信しました。
疫病を鎮める妖怪「アマビエ」を描いた高2女子生徒の作品。母は病院勤めといい、「一人でもいいから伝わってほしい」と糸電話でステイホームを呼びかける |
生徒たちがこの学びを通じて、コロナ問題が自分事になり、どのように付き合っていくべきかが自分たちなりに納得できると気持ちに安心感が生まれました。そうして、教科の勉強を始めて行こうかという雰囲気ができてきて、5月からは各教科のオンライン授業がスタートしていきました。
田中 そこまでにどれくらいかかったのですか。
山藤 約1か月ですね。作品が出始めたのは4月です。4月からの約1か月間、生徒と対話しながら進めたオンライン授業では、高校3年生ではいくつかの教科で授業を実施していましたが、基本的には教科の学習は始めていませんでした。ただ、遅れてしまった、という感覚もありませんでしたし、何より生徒から不満は全くありませんでした。
田中 約1か月も教科の学習を止めることに、先生方から反対の意見はありませんでしたか。
山藤 学校の最上位目標を確認しながら、生徒の声に耳を傾け、その声を全職員で共有しながら、毎日の授業について試行錯誤しながら進めてきました。みなさんの合意のうえで、全学年のプロジェクト型学習に自然と展開していけた感覚でした。とても自然に。
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