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[解説スペシャル]非正規教員 報われぬ熱意 給与6割 夏休み中は「クビ」


2017年7月4日 読売新聞朝刊 掲載


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 教員の長時間労働が社会問題になる中、全国の公立小中学校では担任や部活動の指導をしながら非正規で働く「臨時的教員」が4万人以上と教員定数の約7%を占める。各地の教育委員会が将来の子どもの減少に備え、正規教員の採用数を抑えている影響が大きいが、処遇など勤務実態は意外と知られていない。

(社会保障部・大広悠子/教育部・朝来野祥子)

 

■残業100時間

 富山県内の小学校で臨時的教員として働く30歳代後半の男性の携帯電話に、教育委員会から連絡があったのは今年3月下旬のことだ。「またやってもらえますか」。翌年度の採用を知らせる連絡だった。

 他業種から転職して以来5年以上、各地の小学校を転々としてきた。毎年度末にならないと、次の職場が決まらない。男性は「4月からもどこかで教壇に立てる」と胸をなで下ろした。

 今年度も担任を持ち、若い正規教員の指導役も務めた。午前7時過ぎに登校して、帰宅は午後10時前後。5月の残業は100時間を超えた。しかし、男性の給与は正規教員の6割強。昇給の見通しもない。

 正規教員なら法律にもとづいて、最初の1年間はベテラン教師が付いて指導してもらえるが、臨時的教員には適用されない。「非正規が担任だったから、授業の質が悪かった」などと言われたら、子どもに申し訳がたたないと必死に独学で授業のやり方を身に付けたという。「どうせ1年で異動するんでしょ、と見られてるような気がしてつらい」と話す。

 

■"抜け道"

 地方公務員法では、正規採用を原則としており、臨時的教員はあくまでも例外的な扱い。期間も事実上、1年に限られている。こうしたルールに合わせるかたちで、多くの教育委員会は上限の1年を超えないよう、1年になる前にいったん解雇し、すぐに再雇用する方法を取っている。いわば、現行法の"抜け道"ともとられかねない状況がある。

 

【各教育委員会の臨時的教員に対する処遇例】

■夏休みに合わせて原則1か月間、形式的に解雇する

 解雇中に学校行事の引率や生徒指導、部活動を行っても、無給(新潟県教委)

■退職手当なし

 何年勤めても、退職手当は支給されない(奈良県教委、秋田県教委など)

■扶養手当なし

 正規教員には、扶養する家族1人につき、月額6500~1万円支給(長崎県教委)

■年次有給休暇を翌年度に繰り越さない

 正規と比べて日数が少ない(茨城県教委、鹿児島県教委など)

 

 新潟県教委は、原則として夏休み中の1か月間、臨時的教員を解雇。始業式とともに再雇用する。同県で臨時的教員をしている40歳代の女性は、「担任も持っているので、解雇中も、無給で家庭訪問や校外学習の引率、部活動の指導をしている。でも、収入はない」と話す。

 担任が非正規かどうかまで説明する学校は多くないが、事情を知った保護者の思いは複雑だ。自身の子どもの担任が臨時的教員という神奈川県の教員(42)は「熱心な臨時的教員は多いが、処遇も低く、やる気を維持するのは大変なはず。長期的な視点で子どもを育てようという意欲がなえてしまうのでは」と心配する。

 「教え方もよく、子どもも大好きだったのに、1年でいなくなって残念」「熱心な先生は正規教員にしてほしい」といった声も保護者から上がる。

 

■労働契約法の適用外

 臨時的教員を含む地方公務員には、企業や私立学校で働く非正規労働者を守るための労働契約法が適用されない。

 同法では契約更新しながら働く期間が通算5年を超えると、期限のない「正規」雇用になれる権利が発生する。日本教職員組合が今年2月に初めて行った実態調査では、臨時的教員などとして働く期間は平均で通算5.9年だった。

 一方、臨時的教員でも、労働基準法は一部を除いて適用されるため、年次有給休暇の日数が勤務実態に対して少ない場合などは不適切と見なされることもある。

 総務省は、各自治体に「契約を繰り返すことで、正規と同様の勤務をさせないこと」「短期の解雇期間をおいても継続勤務とみなされる場合があり、適切な対応を」などと指導している。ただ、各教委とも、将来の子どもが減ることに備えて、非正規に頼らざるを得ない状況で、実効性に乏しい。

 教員の非正規問題に詳しい日本福祉大の山口正教授は、「臨時的教員らの処遇はあまりにも低く、放置できない状態だ。短期雇用が繰り返される現状は、教師として子どもを継続的に見守れず、教員の力量の向上を困難にするなど、安定的な教育を保障するうえで、支障が出ている。教員といえども、労働者としての権利を守る法律を整えるべきだ」と指摘している。

 

●少子化見据え 正規採用を抑制

 2016年度の全国の臨時的教員数は4万1030人。正規教員が出産育児などで休職する際に雇う代替教員らを除いた人数で、01年度から約1.7倍に増えている。

 背景には2000年ごろから、「少人数学級」や複数教員を配置した「チームティーチング」の機運が高まったことがある。各教育委員会はそのための教員を増やしたが、その際、教員給与の一部を負担する国の補助金が単年度支給だったため、「長期雇用に不安を感じた教委が正規教員を避け、任期付きの臨時的教員を採用するケースが増えた」(文部科学省幹部)という。

 その後、臨時的教員の位置付けは少子化で変質した。ある教委の幹部は「正規教員は将来、子どもの数が大きく減っても解雇できず、財政を圧迫しかねない。そこで新卒の教員採用を抑え、臨時的教員の雇用を増やした」と語り、臨時的教員を雇用の「調整弁」にしている実態を明かす。

 別の教委の幹部も「児童数が急増した時代に大量採用された教員の退職に伴い、新卒の正規教員を増やすと、年齢構成に偏りが出てしまう。当面の措置として、臨時的教員の採用で急場をしのいでいる」と打ち明ける。

 文科省は臨時的教員ではなく、正規教員を採用するよう各教委に要請している。同省幹部は「最近は臨時的教員の給与水準を引き上げている教委も多い」と話しているが、16年度調査では、臨時的教員が教員定数の1割を超えているところも8教委に上っている。

 

公立小中学校の臨時的教員数の推移(※文部科学省の資料をもとに作成、出産育児などの代替教員を除く)

 

[MEMO] 臨時的教員

 地方公務員法の臨時職員に関する規定に基づき雇用される。雇用期間は6か月以内、更新は1回限りと定められ、事実上1年以内しか雇えない。教員の免許は持っているものの、各教育委員会の採用試験に合格している必要はない。


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(2017年7月 4日 10:00)
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