大きいチャイルドペナルティ《記者のじぶんごと》
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1月23日公開の当欄コラム「『異次元の少子化対策』への期待」に、知り合いから感想が届いた。社会人の子を持つ記者が、仕事を続けるうえでやりとりしてきた同世代の女性たちからの期待だ。いくつかを紹介したい。
個々人の妊娠・出産に深くかかわる助産師は昨今、注目されている「チャイルドペナルティ」という言葉をあげ、「初めて(この言葉を)見たとき、衝撃を受けた。日本では子宝という言葉は死んだのか...と」とつづった。
チャイルドペナルティは子どもを持つことで生じる社会的や経済(特に賃金)上の不利を意味する。子育て世代には「子を持つことが何かの罰のよう」「子どもと子育てする親への冷たい仕打ち」などの意味でも使われている。
「経済優先、効率優先の社会では、効率とは真逆で予測不可能かつアンコントローラブルな子どもは居場所を失い、子どもをケアする人(主に女性)は生きづらい。そういう現状に子どもを持とうとする人たちが減るのは当然」と分析したうえで、「子育てを社会で支える仕組み、個人や家庭にだけではなく雇用する事業所にも支援をしていく仕組みがほしい。そして意図しない妊娠でも出産をためらわなくていい社会であってほしい」と求める。
チャイルドペナルティは財務省財務総合政策研究所が2022年6月に発行した「仕事・働き方・賃金に関する研究会」報告書でも日本の状況が特集されている。アメリカ・プリンストン大学のクレベン教授の論文で2019年に注目されたという。
財務総合政策研究所コンサルティングフェローで京都大学准教授の古村典洋氏らが、20~34歳の男女とその配偶者のデータを用いて第1子の出産前後12年間の労働所得を分析したところ、女性の場合、産後1年の所得が出産の1年前の所得に比べて7割近くマイナスになっていた。産後7年までの推移をみると、回復はゆるやかで7年たってもマイナス6割程度のままだった。非正規雇用は正社員に比べて減少割合が大きかった。男性では変化はなかった。チャイルドペナルティが別名マザーフッドペナルティといわれるゆえんだ。
日本では女性の働き方の特徴として「M字カーブ」という言葉が長く用いられてきた。就業率は20代で高く、出産期に当たる年代に低下して子育てが落ち着いた時期に上がる。その様子がM字に似ているためだ。保育施設の拡充などが進み、M字の谷は浅くなったが、新たな「L字カーブ」という課題が浮上している。女性就業者の正規雇用率を見ると、20代後半の5割超をピークに下がり続け、それが「L字」に似ているという。正規雇用と非正規雇用で賃金差があることから、チャイルドペナルティ(マザーフッドペナルティ)が裏付けられた格好だ。
「職場での両立支援制度より固定的役割分担意識とか、社会や地域の考え方そのものを変えなくてはという気がします」と書いたのは女性活躍にもかかわった経験をもつ管理職だ。同じく実務経験を持つ記者もこの意見に賛同する。
両立支援制度の利用は女性に多く、パートナーの家事分担や働き方への関与は難しい。そして女性社員が両立を優先して手厚い支援制度を長く利用している場合、仕事上の機会や経験を積むうえでマイナスに働きかねないリスクが生じる。長時間労働が求められる職場はなお多数ある。両立はできても昇給・昇進に縁遠くなる「マミートラック」というキャリアコースをたどるパターンだ。
当事者がチャイルドペナルティ、特にマザーフッドペナルティを強く感じている日本で、少子化対策を進めることはできるのだろうか。
ドイツ在住の会社員はアジア、欧州で長く働いてきた経験を踏まえ、「食事や家事へのこだわりを改めることと、仕事を定時にすませることを是とする職場環境を確保することが必要」とする。アジアでは豊富な外食産業や安価な住み込みの家事・子育て支援を目の当たりにし、オランダで性別にかかわりなく育児短時間勤務を利用してキャリアアップできる職場環境を見聞した。ドイツでは朝夕の食事作りに火を使わないのが一般的だという。
「食事は温かくて手をかけたもの、家事は自分でするものというこだわりがあると、仕事と家庭の両立は難しいか、キャリアをある程度犠牲にしないと成り立たない」と職場の働き方改革とともに個人の意識改革を強く推奨している。
記者も育児休業などで減収を経験した。仕事柄、子どもが小さい頃はパートナーの協力があっても綱渡りだった。しかし、命を育み育てるのは人類だけではない。チャイルドペナルティがあるなら対義語であるチャイルドリワードについても可視化され、共有できる機会が増えれば、と思う。
(笠間亜紀子)
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