17個のプレゼント《記者のじぶんごと》

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 「頑張っている姿が目に留まりました。子どもさんの将来が楽しみです」

 

 こんなお手紙と一緒に福岡県から素敵なプレゼントが届いた、という知らせを聞き、横浜市立小机こづくえ小学校を訪ねました。15世紀に築かれた山城「小机城」の跡が残る町で学びながら、地域の魅力を発信している子どもたち。その活動を紹介した今年1月10日の読売新聞朝刊「SDGs@スクール」の記事を読んだ方が差出人でした。プラスチックのケースに入った長さ3センチほどのかわいらしい紙靴が17個。それぞれ、SDGsの17目標のアイコンがあしらわれていました。丁寧な字で書かれた手紙は「活躍を心より応援しています」と結ばれていました。

 

 記事で紹介したのは、地元のパン屋さんの協力で「小机らしい」オリジナルのパンを考えた3年生と、城跡で毎年行われる「竹灯籠まつり」の灯籠を手作りして、身近な自然を守ることを学んだ4年生たち(いずれも昨年度)です(WEB記事は>>こちら)。「全国の人が読んでくれて驚いた」「もっとSDGs活動を頑張りたい」。子どもたちは、自分たちの活動が新聞で紹介されたことの嬉しさはもちろん、遠く九州からも反響があった手応えを口々に話してくれました。

 紙靴の送り主は、福岡県南部のうきは市に住む境賢悟さん(82)です。3月末に同県の実家に帰省した際、ご自宅を訪ねました。県内の定時制高校を卒業後、同市の靴メーカーなどで40年以上にわたって靴のデザインを担当してきた境さんは、定年後も熊本県の企業に10年ほど勤務。熟練の技で、店先で見かけた靴の紙型も簡単に作れてしまうほどです。ミニチュアの紙靴づくりは、妻・順子さんの趣味であるパッチワークをきっかけに2018年から始めました。厚紙で作った靴型に、チラシや包装紙などの「端切れ」を使って模様を付けるオリジナルの作品たち。すべて「一点もの」で、頂き物のお礼などに作っていたものでした。

 「恥ずかしながら、たまたま記事を目にするまで『SDGs』という言葉を意識したこともなかった」と振り返る境さんですが、チラシや包装紙を「リユース(再利用)」した紙靴づくりは、まさにSDGsそのもの。展示用のミニケースには、スーパーで売られている野菜や味噌などのパックを洗って再利用しています。「売ろうなんて思ったこともない。年寄りの暇つぶしかもしれないけど、子どもたちが喜んでくれてうれしい。これからも、地道に作り続けますよ」と笑顔で話してくれました。

 新年度を迎え、新たな学年でスタートを切った小机小学校の子どもたち。昨年度、竹灯籠づくりに取り組んだ新5年生は、オリーブ栽培に挑戦します。地中海沿岸などの温暖な地で育つイメージが強いオリーブですが、地球温暖化の影響で、世界の主要産地では不作が続く一方、栽培の北限が北に移動しているといわれています。小机小は、耕作放棄地を活用して新たな産業を創生する横浜市のプロジェクトの担い手として、市内の小学校では初めて選ばれたのです。

 3月21日には、大人たちの手を借りて、子どもたちが学校の敷地にオリーブの木を植えました。遠藤淳子校長は、「地球温暖化への関心を入り口に、持続可能な産業の創生など、子どもたちの興味を広げていきたい」と力を込めます。自分たちの活動が誰かを動かし、誰かの活動がまた別の誰かを動かす──。これからも、そんな取り組みを応援していきたいと思います。

石橋大祐


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(2024年4月12日 14:00)
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