やあ、こんにちは。新聞活用学習・NIEのナビゲーター、ヤク先生だよ。今日は、新聞記事からテーマを拾って、考えをシンプルに伝える発表に取り組む授業を紹介するね。説明力が備わり、社会性もついて、主権者教育にも役立つと注目されているんだって。
ヤクは、ユーラシア大陸の高地に生息する、ウシの仲間。NIEを通して、これからの社会を生き抜く上で"ヤク"立つ力が子どもたちにつくよう、ヤク先生が応援していきます。
「源氏物語」を例に、紙芝居の形で書かれた発表シート例。起承転結でまとめる、1枚3行程度、などノウハウも書かれている(クリックで拡大) |
●群馬県立大泉高校(群馬県大泉町)
今回、お邪魔したのは、群馬県立大泉高校。この日は、大人の定義が2022年4月に20歳から18歳になる民法改正が決まったと知らせる新聞記事を使って、普通科1年生40人が総合学習の授業を受けていたよ。テーマは「大人とは?」。授業を担当する大津幸信先生(46)が、まず新聞記事を生徒に読ませ、生徒一人ひとりが自分なりの考えを5枚の付せんにそれぞれ書き出していたんだ。
新聞記事を元にひねり出す
「自立している人」「すべて責任を取る人」「免許を持っている」・・・。いろいろな答えが書かれているなあ。「頭が薄くなる」「いじめが少ない」なんていうのもあった。どの子も悩みながら書き込んでいたけど、大津先生が「こんなこと書いちゃってもいいの!?っていうことでもOK」と付け加えていたよ。大津先生は「とにかくひねり出そう」と呼びかけながら、「分からなかったら新聞記事を読み返してみて」とも話し、1年生たちはお酒やパスポートなど、さまざまな法律改正について触れられた記事を何度も読んでいたよ。
「大人とは?」というテーマで付せんに思ったことを書き込むよう語りかける大津先生 |
頭の中を整理する
5枚の付せんが書き終わったら、4人1組になって、それぞれが書いた付せん計20枚がどういうグループに分けられるか話し合っていた。1年生たちは、「これは考え方の話?」「『酒が飲める』はどういうグループに入る?」など、一生懸命にグループ分けしながらそれぞれのグループにタイトルをつけ、グループの関係性を矢印で表現。そして模造紙にまとめて大きなタイトルをつけたんだ。
話し合いながら、集めた付せんを模造紙上でグループ分けしていく |
班ごとに話し合い、発表
最後は班ごとに「私たちの班では、こういう意見が出て、結論はこうなりました」などと発表。「人の立場にたって考えられるのが大人」っていう結論が多かったのが印象的だったね。「考えるのは大変だけど、世の中のことを真剣に考えるのはなかなか面白い」と女子生徒の一人。大津先生によると、1年生には、こうやって、頭の中を整理する方法を身につけてもらうんだって。
20枚の付せんをまとめた模造紙 |
聞き手のことを考える「紙芝居」も
2、3年ではさらに、タイムリーな新聞記事をベースに、10枚程度に凝縮した紙芝居形式にして発表してもらう授業を行うそうだよ。紙芝居形式は、起承転結の形でストーリーを練る必要があるから、より高い論理的思考力が養われるんだって。さらに10枚のコマ割りは、読者目線で相手の気持ちを考えなきゃならないから、人に伝えたり、相手の心に訴えかけたりする訓練になって、大学入試の面接などにも役立つそうだよ。面接が差し迫った3年生からは、この授業が好評なんだって。
大文字でシンプルにまとめた紙芝居形式で発表する生徒 |
余分な言葉をそぎ落とす
ちなみに、大津先生が今年度、3年生に行った「紙芝居」授業で使ったニュースは、アニメ監督の高畑勲さん死去、相撲の女人禁制問題、公文書改ざん問題など、今年に入って世の中をにぎわせたニュースばかり。見やすくするためのルールは「大きな文字」「2~3行程度」などで、みんなはシートに書く言葉を、余分な言葉をそぎ落とながら一生懸命に考えていたよ。亡くなった高畑勲さんをテーマにまとめたグループは、「1968年に初監督を務めた」「高畑さんが日本のアニメに刻んだもの」などポイントを押さえて楽しげに発表していたね、撮影カメラのイラストとか、「今晩の金曜ロードショー見てね」っていうメッセージとか、心に響くものを入れながらね。
アニメ監督・高畑勲さんについて生徒がまとめた発表シート(クリックで拡大) |
他人事を自分事に変える
「この授業で、生徒は実社会について自分の頭で考え、社会との責任のあるかかわり方を学ぶ」(大津先生)そうで、論理的思考力、プレゼンテーション力、社会性と一石三鳥の力がつくとも言えそうだね。生徒会選挙、議会傍聴といった主権者教育も意義深いけど、この授業もそうした教育につながりそうだから、大津先生は「新聞を読むことを通じて、他人事を自分事に組み替えていく積み重ねは、主権者教育が充実していく鍵だと思っている」とも話しているよ。
これまでに生徒たちが作った紙芝居形式でまとめた発表シート |
「伝えること」にポイントを置いて発表のイロハを生徒に伝えている大津先生は、「プレゼンテーションは、聞く人へのプレゼント。聞き手に理解してもらう努力が大切」と生徒によく話すんだって。だから、自分が生徒に授業で伝える時には、アニメのキャラクターや、アイドル歌手のイラストなど、生徒がほっこりするような素材を説明プリントなどによく取り入れるそうだよ、生徒の心に少しでも響くようにね。この授業で、選挙を前向きに考えるようになった卒業生も多いそうだから、大津先生もますます楽しみながら力を入れそうだね。
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