ぬまっち先生コラム39 ペンギンバトン(2)

運動会の3年生クラス対抗リレーの前に。「頼んだぞ!」(5月21日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第39回 ペンギンバトン(2)


 

♣運動会の華はクラス対抗リレー

 世田谷小大運動会の名物イベントは、各学年単位でのクラス対抗リレーです。足の速い子も遅い子も全員参加がルールです。

 3年生のボクのクラスは34人。9人ずつで4チームを作り、2チームずつ2レースに出場します。つまり、ABチームが第1レース、CDチームが第2レースを走る。各学年3クラスなので、ひとつのレースには6チームが出場します。

 あれ、34人だと2人選手が足りないのでは? その通りです。9人×4チーム=36人必要なので、2人は2チームの兼務選手となり、2つのレースに連続出場します。この2人をどう選抜するかが、チーム編成の決め手になります。

 優勝はABCD4チームの順位を足した数で競います。例えば、第1レースで1着と6着、第2レースで2着と4着だった場合は「13」とカウントします。パーフェクト優勝が1着-2着、1着―2着の「6」であることがお分かりいただけると思います。

 

♠常勝カントクゆえの重圧

 このクラス対抗リレーはボクにとっても勝負の大舞台です。だって、勝利至上主義者ですから!

 これまでに9回運動会を経験しましたが、ボクが担任したクラスはリレーで9戦7勝。今春卒業した5代目・世界一のクラスは5、6年生で2連覇しました。正直、これはボクの手腕というより彼ら自身のすごさでしたね。本当に強かった。ちなみに、彼らはチーム色の総合優勝でも2連覇しました。

 しかし、最近ちょっと困っているのは、保護者のみなさんから「沼田先生のクラスは勝って当たり前」という無言のプレッシャーをいただくようになったことです。まあ、こういう期待はむしろ意気に感じるタイプなんですが(笑)。

 リレーの戦法については、この連載の第22回「シュートをねらえ!(3)」で少し紹介し、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)でも詳しく書きました。「足の遅い子から先に並べる」というものです。今年の3年生も基本的に同じ戦法ですが、今回はこれまで書いたことのないチーム編成のプロセス、リレーを体育以外の「学び」に結びつける方法についても紹介したいと思います。

 

♦体育がいつの間にか算数に

 「ミスターX」と「ミスZ」。この2人が「レースで2回走る選手」の仮の名前です。2回走るんだから、足が速いエース級が選ばれるべきでしょう。ただ、この2人が決まるのは、まだ先のことです。

 

 まず最初に、体育の授業でクラス全員の50メートル走タイムを計ります。タイムは2回取ります。足が速いけれど手を抜きそうな子には「遅い方の記録を取るからね」と釘を刺すこともありますが、本当はスリップや接触が起こることがあるので、より正確な記録を採用したいからです。これが「予選タイム」となります。

 そのタイムを10倍した数字を子どもに伝え、それぞれ短冊に書かせます。例えば9.6秒なら「96」というふうに。その短冊を男女別に分け、数字の小さな順(タイムのよい順)に並べ直します。ミスターXとミスZのタイムは、男子1位と女子1位のタイムを仮に当てておきます。計36枚の数字短冊を、ABCDの4チームに振り分けて、順番に黒板にセロテープで貼り付けていきます。1チーム9人なので、横に4列、縦に9列の数字の列ができます。

 

 「さあみんな、自分のいるチームのタイムを合計しよう!」

 

 言い忘れましたが、いまこの授業は体育でなく「算数」です。さっき10倍したタイムを伝えたのは、3年生はまだ小数点の足し算を習っていないからです。クラス全員で計算し、4チームそれぞれの合計タイム(×10)が出ます。だいたい平均するように黒板に貼ったはずですが、実際に計算してみるとかなり凸凹があります。

 

 「4チームの合計を同じにするにはどうしたらいいかな?」と、ボクは問いかけます。

 

 そう、トレードすればいいのです。4チーム間で選手トレードが始まります。みんなで議論しつつ短冊を移動し、その度に再計算して、可能な限り4つの合計数を近づけていきます。

 割り算を知っていれば、総合計を4で割ってだいたいの目安を出したり、高学年になると三角トレードというワザを使えたりしますが、3年生ですから短冊を入れ替える度にひたすら足し算、足し算です。しかし勉強だと思う子はいません。やっていることは「運動会リレーのチーム編成」だからです。

 最近、算数の授業で足し算の筆算をやりましたが、「これ、もうとっくに終わったよね?」と言ったら、子どもたちは「やってないよ?」と首をかしげます。「やったじゃん」。子どもたちはそこで初めて気づいたようです。

 

 「あ、リレーのチーム決めって算数だったんだ!」

 

♥4つのチーム力を平均化する理由

 ボクはいつも最初に、4チームの合計タイムを0.1秒単位まで平均化することに力を注ぎます。それが全員でリレーをする教育的意図にかなっていると思うし、チームで戦うという意味でもこのやり方が正しいと信じているからです。

 先に説明した通り、リレーの成績は4チームの順位合計なので、単純に勝つことだけを考えたら、3チームに主力を集めて1着、2着を狙い、1チームを捨て駒にする戦法もありうると思います。ひょっとしたらその方が有利かもしれない。

 そんな戦略的意図はなくても、最初のチーム編成が適当だと、強いチームと弱いチームの差がはっきり分かれてしまうことはあるでしょう。ボクはそうしたくない。それではチームの一体感が生まれないからです。

 

 多くの小学校で運動会が5月にあるのは偶然ではありません。新学期に初めて顔を合わせた子どもたちが、クラスとして一丸となるための大事なイベントなのです。ボクたちが目指すのは優勝ですが、それはクラス全体で勝ち取るものでなければなりません。そのために、4チームの力の差は最初限りなくゼロに近い方がいい。

 今後、各チームの実力がどのくらい伸びるかは、ひとりひとりの頑張りにかかっている。同じクラスだけどチーム同士はライバルでもある。そう子どもたちに感じてほしいからです。

 

 5月21日の運動会まであと一か月ありますが、ボクたちの熱いレースはすでにスタートしているのです。


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。新刊『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が発売中。

 

(2016年8月 1日 10:00)
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