全国小・中学校作文コンクール

戦後間もない1951年(昭和26年)に川端康成氏らを審査委員に迎えて発足し、現在では国内外から3万5095点(第65回・2015年度)の作品を集める“日本一の作文コンクール”です。入賞作品は読売新聞紙面で発表されるほか、毎年、優秀作品集も発行されています。子どもたちの「書く力」を育てる本コンクールは、教育関係者や保護者からの認知度も高く、IT化が進む中、今後ますますその社会的意義が高まっていると認識しています。
《第66回》文部科学大臣賞作品紹介(1)(2016年12月 5日)

第66回全国小・中学校作文コンクールの中央最終審査会が行われ、各賞が決定しました。応募は国内外から3万1841点(小学校低学年4860点、高学年7566点、中学校1万9415点)。文部科学大臣賞3点を要約して紹介します。(敬称略) =2016年11月29日の読売新聞朝刊に掲載しました=


 

<小学校低学年>

「お父さんの右手」

徳島市立加茂名南小3年 田渕伶愛菜(たぶち・りおな)

 私のお父さんは身体しょうがい者です。

 会社で使っていた大きなは物が回るきかいにまきこまれて、右手がくだけてグチャグチャになったそうです。

 手のせん門の有名な先生が、手じゅつをしてくれた事や、指が全部のこっていた事など、いろんなきせきがかさなって、お父さんの右手は、見事にふっかつしました。

 でも、ジャンケンのパーはできるけど、チョキとグーはできません。おもたい物も持てないし、指でつまむ動作もできません。

 しばらくして、わすれられない出来事がおきました。

 それは、家族でおすしを食べに行った時の事です。

 お父さんは、大好物の茶わんむしを注文しました。

 はこばれて来た茶わんむしを、お父さんが自分の所におこうとして持った時、思ったい上にあつかったみたいで、落としてしまいました。

 ガチャンと大きな音がして、中身のほとんどがテーブルにこぼれてしまいました。

 お店の人におわびをして、ふきんをかりて家族みんなできれいにかたづけました。

 そんな私たちの様子を、まわりの人たちはジロジロ見ていました。
 なんだかいづらくなって、すぐにお店を出ました。

 お兄ちゃんが「まわりの人ら、なんかはら立つな」と言いました。そのしゅん間、なみだがあふれ出てきました。

 お母さんが「気にしないで大丈夫! また会うかどうかもわからん人たちやし、みんな明日の朝にはわすれてるよ」と言ってくれて、少し落ち着きました。

 見た目だけではんだんしないで、みんながやさしい気持ちを持ってくれたらいいのにと思いました。

 そこでふと考えました。

 見た目でしょうがい者だとわからない人が、ふつうにできる事をふつうにできない様子を見た時、私も同じような顔やたいどをしていたかもしれません。

 これからは気をつけて、やさしい気持ちを持とうと思いました。

 出来事からしばらくして、また家族でおすしを食べに行きました。

 はこばれてきた茶わんむしを、お母さんがハンカチではさんで持って、お父さんの前においてフタを開けました。

 お父さんは苦わらいをしながら「ちょっとトラウマ」と言いました。

 お母さんが「私がおるよ!」と言って、私も「私もおるよ!」と言って、お兄ちゃんも「ぼくもおるよ!」と言いました。

 お父さんはてれくさそうに「ありがとう」と言いました。

 それからお父さんは、「うん、うまい!」と茶わんむしを、とてもおいしそうに全部食べました。

 私はお父さんが大好きです。

 もう少し大きくなったら、お父さんの右手の代わりになって、たすけてあげたいと思います。(指導・八島義典教諭)

 

◆家族の歴史が見える

【講評】 おすし屋さんでの出来事を「悲しかった」「くやしかった」で片づけてしまわず、自分の心の動きをていねいに見つめています。そんな作者の描く両親やお兄さんの姿からは家族が歩んできた歴史が見えてきて、胸を打たれました。個人の経験を社会全体の問題につなげていく想像力と思考力もすばらしい。(梯久美子)

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